第6楽章〜魔塔カ・ディンギル〜
第58節「ただ、それだけ出来れば──」
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る頃、翔もまた、響の懐を目指して向かっていく。しかし翔が辿り着くよりも先に、響の真っ黒な右腕からガシャン、という音と共に煙が噴き出した。
「ウウウアッ!」
勢いよく跳躍し、その鋭い爪と共に突き出された右手。
(男なら……守るべき誰かの為に──強くなれッ!)
その瞬間、翔はその足を止めると……両腕を広げて響を見上げた。
「アアアアアアーーーッ!」
「…………」
次の瞬間、響の爪が翔のギアの胸部へと突き刺さる……事はなかった。
その爪を、まさに紙一重で躱した翔は、ただ穏やかな表情で響の背中に手を回すと、その黒一色に染まった身体を抱き締めた。
「ッ!?」
突然、その身を包んだ温かさに、響は腕を降ろす。それを見て、翔はその右手を優しく取って、その耳元で囁いた。
「……この手は、束ねて繋ぐ力のはずだろ?」
「ッ!?ガッ……ウウウウゥゥゥウウ……ッ!」
動きを止めたのも束の間、また暴れようとする響。
そこへ、何かが地面へと突き刺さる音と共に、翼の叫びが耳に届く。
「翔……後は任せるッ!」
〈影縫い〉
打ち合わせずとも、弟が何をしようとしているのかを悟った姉から届いた、文字通りの『助太刀』。
影縫いに動きを封じられた響は、これ以上暴れる事が出来ない。
翔はそのまま響へと囁き続ける。
「……響。奏さんから継いだ力を、そんな風に使わないでくれ……。その気持ちは痛いほど分かる……。でも、それで誰かを傷付けるのは間違っている……」
「ウウゥ……ア……アアア……」
響の目尻が下がり始め、その目に涙が浮かぶ。
「純と雪音が倒れたり、学院がこんなになっちまったり……悲しいのはわかる。……悔しさと怒りが溢れて来て、ガングニールの力そのものに、心を塗り潰されそうになってるのも分かる……。でもな……それでも──」
自然と、響を抱き締める腕に力が篭もる。響の右手を掴んでいた手を、その頭に乗せて優しく撫でる。
閉じた瞼の裏、見えたのは暗闇へと沈んでいく最愛の人の姿。
翔はそれに手を伸ばすイメージを思い描き、力強く叫んだ。
「諦めるなッ!」
「ッ……!ウウ……う……アぁ……あ……」
「響ッ!」
翔は響の顔を見る。その目は……泣いていた。
「響……」
頬を滴る透明な雫が、真っ黒に染まった頬に輝く。
温もりと、触れる手と、その意識を呼び戻す力を持った言葉。破壊衝動に塗り固められた響の心を、完全に取り戻すまであと一歩……。
その最後のひと押しに、翔は……最も響の意識を呼び起こすだけの衝撃を与える行動を選んだ。
背中に回していた両腕を離し、その両手を頬に添える。
その行動に至ったのは、親友からの影響か。それとも、その展開が王道中の王道だからか。
「……ん
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