第5楽章〜交わる想い、繋がるとき〜
第46節「大人の務め」
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れだけを考えて。
曇天覆う空の下、降り注ぐ雨の中で濡れながら、電柱の上で立ち止まったクリスは俯く。
(……あたしは、何を……)
本当はもう分かっているはずだ。あの男、風鳴弦十郎が心の底から自分を気遣っている事は。
しかし、クリスはやはりどうしても、彼を信用する事が出来ずにいた。囚われの5年間の中で育ってしまった大人への不信感が、どうしても邪魔をするのだ。
弦十郎を頼れば、自分は逃げ続けなくてもよくなる。なんなら、純を助けられるかもしれない。
でも……やっぱり信じて裏切られるのが怖い。
(……本当に、何やってるんだろうな、あたしは。逃げて、隠れて……こんなんでジュンくんを助けられるのかよ……)
本当に心の底から信用出来る人は、フィーネに捕まってしまった。
このままでは、彼は自分の為に手を汚してしまうかもしれない。もしかしたら、自分と同じ十字架を背負わせてしまうかもしれない。
そう思うと恐ろしい。今すぐあの館へ、助けに戻りたい。でも、やっぱり怖い……。
(それに比べてあのおっさんは……)
弦十郎にかけられた言葉を、もう一度思い出す。
『俺がやりたいのは、君を救い出すことだ』
(あたしが、やりたかった事……)
『引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな』
(やりとげる……。……そうだな。逃げてるなんて、あたしらしくないか)
弦十郎は、これまで見た事のない大人だった。自分の責任を果たすため、前を向いて行動している。
大人が嫌いな自分が、その大人に求めていた事を実行している。クリスから見た弦十郎は、そういう珍しい在り方をした大人として映っていた。
「いいさ、やってやるよ。これ以上、あんなおっさんに好き勝手言われてたまるかッ!」
降り注ぐ雨の中、クリスは曇り空を見上げて胸に誓う。
(待っててくれよ、ジュンくん!必ず助けに行くからなッ!)
自分を迎えに来てくれた王子様が、逆に魔女の手に捕まってしまった。
それなら今度は、お姫様が助けに行く番だ。
言葉使いはぶっきらぼう、纏うドレスは鉄より硬く、その手に持つのは鉄の弾吹く魔の弩。
お姫様と呼ぶには程遠いけれど、彼女の心には誰よりも熱く純粋な、彼への恋心が燃え盛っていた。
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