第5楽章〜交わる想い、繋がるとき〜
第46節「大人の務め」
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十郎は腐りかけの畳に腰を下ろした。
「元公安の御用牙でね。慣れた仕事さ。……ほら、差し入れだ。腹が減っているんじゃないかと思ってな」
そう言って弦十郎は、レジ袋を差し出した。
断ろうとするクリスだったが、タイミング悪く腹の虫が鳴いてしまう。
弦十郎はフッ、と笑うとレジ袋の中からアンパンを取り出して袋を空け……ばくり、と一口齧り付いた。
「……何も盛っちゃいないさ」
「……ッ!くッ!はぐ、もぐもぐ……。──あぐ、もぐッ!」
弦十郎の手からひったくるように奪い取ったアンパンに、ガツガツと齧り付くクリス。
その様子を弦十郎は、静かに見つめていた。
「……バイオリン奏者、雪音雅律と声楽家のソネット・M・ユキネが、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて、死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明になった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって、事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は、発見され保護。日本に移送される事になった──」
そこで弦十郎は牛乳パックを空け、一口飲む。
クリスはまたしてもそれを受け取ると、ごくごくと一気に飲み干した。
「ふん、よく調べているじゃねぇか。……そういう詮索、反吐が出る!」
「当時の俺達は適合者を探す為に、音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として、手を挙げたのさ」
「ふん、こっちでも女衒かよ」
「ところが、少女は帰国直後に消息不明。俺達も慌てたよ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが──この件に関わった者の多くが死亡。あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった」
当然、捜査員達はフィーネに始末されたと考えるのが妥当だろう。
それほどまでに、彼女は自らの存在が明るみに出るのを徹底して防いでいたのだ。
「……何がしたい、おっさん!」
「俺がやりたいのは、君を救い出すことだ」
「えっ……?」
「引き受けた仕事をやりとげるのは、大人の務めだからな」
「はんッ!大人の務めと来たか!余計な事以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうにッ!」
そう言ってクリスは、中身の空になった牛乳パックを部屋に投げ捨て、窓の方へと突っ込んでいく。
弦十郎が振り返った時には、クリスは宙返りしながら、ベランダへと続く窓ガラスを背中で割って飛び降りていた。
「──Killter Ichaival tron──」
シンフォギアを纏い、そのままクリスはビルの屋上から屋上へと飛び移りながら、何処かへと去ってしまった。
「……行ってしまったか」
それを弦十郎は、やはりただ静かに見つめている。
彼女の心を開くにはどうすればいいのか……。ただ、そ
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