第六十三話 成長その十一
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「働かせて頂きます」
「頼むでおじゃる。ただ」
ここで義元はこうも言った。
「麿も彦五郎もいないと」
「その時は、ですか」
「天下の為にでおじゃる」
こうも言うのだった。
「働いて欲しいでおじゃる」
「拙僧は」
「左様、和上の学識を」
それをというのだ。
「天下の為にでおじゃる」
「使うべきですか」
「だからでおじゃる」
「若し今川家がなくなれば」
「その時はでおじゃる」
「仏門に戻らずに」
「そうでおじゃる、頼むでおじゃるよ」
「それでは」
「人は結局でおじゃる」
義元はさらに話した、酒と馳走を楽しんでいるがそれと共にこの世にある無常を見てそれで言うのだ。
「明日死んでもでおじゃる」
「不思議ではありませぬな」
「春の夜の夢の如しでおじゃるな」
笑ってこうも言うのだった。
「まさに」
「それ故に」
「麿も今川家も」
「明日にでもですか」
「それこそ泡沫の如く」
今度はこう言った。
「瞬く間にでおじゃる」
「消えると」
「それは書にもあるでおじゃるな」
「源氏物語、方丈記と」
「平家物語もでおじゃるな」
「はい、特に平家物語は」
この書ではというのだ。
「とりわけ」
「それでおじゃる、この世はでおじゃる」
「まさに夢の如しで」
「こうして飲んで楽しんで」
そしてというのだ。
「戦に勝っても」
「それでもですか」
「明日には」
「死んでいるやも知れぬ」
「それは誰でもでおじゃるからな」
「殿もですか」
「源氏の君も入道殿も」
源氏物語の光源氏、平家物語の平清盛もというのだ。
「そうでおじゃったな」
「そのことは」
「そして御仏の教えは」
仏教のそれはというと。
「麿が還俗前に学んだでおじゃるが」
「やはりです」
「この世のことはでおじゃるな」
「無常であります」
「ならでおじゃる」
「この世のことは」
「明日もわからず」
そしてというのだ。
「麿自身も」
「ですか、そして」
「その時はでおじゃる」
「わかり申した、ですが」
雪斎は頷きつつ義元に話した。
「殿、そして彦五郎様と」
「今川家があればでおじゃるか」
「その限りは」
まさにというのだ。
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