第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第36節「ヒーローの条件」
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「……なるほど。つまり君はその一言で、自分の正義を見失ってしまったというわけだね?」
事の端末を語ると、千優さんは黙って聞いてくれた。
「はい……。あの一言がどうしても、胸に刺さって抜けなくて……。俺は、本当にあの子の隣に居ていい男なのかなって……。こんな偽善者が彼女を支えようだなんて、浅ましいじゃないですか。なのに、それも忘れて、許されたと舞い上がって……。千優さん……これから俺は、あの子にどう接していけばいいんでしょうか?」
見返りを求めていたわけじゃない。でも、こんな僕にあの子を支える資格なんて、果たしてあるのだろうか。
自分の弱さに蓋をして、古傷を隠すための手段は自己満足の人助け。
かっこ悪いなんてものじゃない。滑稽なくらい浅はかだ。
本当に……俺は、何を思って立花の隣に立っていられるつもりになっていたんだろう……。
「……いいじゃないか、偽善者だって」
「……え?」
真優さんの言葉に首を傾げると、真優さんは自信たっぷりに、堂々と言った。
「やらぬ善よりやる偽善、むしろ偽物だって善は善。全然アリだろ動かねぇよりは、断然そっちがCOOL GUY」
「それって……ライドランの?」
「主題歌の歌詞だとも。知っているだろう?」
当然知っている。
『黒竜拳士ライドラン』。それはヒーローになる夢を持つ青年がある日、本物のヒーローの力を手に入れ、街の平和を守る為に戦う物語。
戦いの中で己の正義に迷い、苦悩し、それでも信じた道を貫き進む主人公の心を描いた主題歌のワンフレーズがそれだった。
「つまりはそういう事さ。足が竦んで動けなかったのは、人間として当然の恐怖だ。俺だって、例えば目の前にノイズが居たりしたら、怖くて動けないだろう……。でも、君は今、こうして前に進んでるんだろう?果たしてそれは、本当に偽善かい?」
そう言われてハッとなる。
本物の偽善者なら、他人の為に本気で命を懸けるような真似はしない。
でも、俺は……立花を助けたい一心で、ノイズの前に飛び出した。この胸に刻まれた生弓矢の痕こそがその証。
それをあの一言だけで忘れていたなんて、俺はなんて大馬鹿野郎なんだ……。
「人の為に善をなす者と書いて『偽善者』だ。結局善に嘘も本当もない。自己満足、お節介、衝動的でいいじゃない。ヒーローってのは基本的にそういう生き方から始まるものさ」
「で、でも……彼女を支えようと思った動機は……」
「動機が憐憫なんじゃないかって?じゃあ聞こう、少年はその子の事を可哀想だ、なんて思った事はあるのか?」
そう言われ、ふと思い返す。
あれから2年……俺は立花に対して、どんな思いを向けていた?
次々とフラッシュバックする光景の数々。胸に抱いた後悔に苛まれ続けた日々の記憶。
しかし
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