暁 〜小説投稿サイト〜
戦姫絶唱シンフォギア〜響き交わる伴装者〜
第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第35節「道に迷う者、導く者」
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
ただの自己満足だ。立花のように、心の底からそうしたいからというよりも、あの日の自分とはもう違う事を実感したくて、手を伸ばしている。それが俺だ。
 ……やっぱり僕が手を伸ばしているのは、あの日の立花の幻影に向かって……なのかもしれない。
 つまりそれは、あの日を乗り越え前に進んだ今の立花に対する自分自身が、未だに憐憫を以て彼女と接しているという事だ。
「……浅ましい男だな、俺は……」
「随分と浮かない顔だけど……悩み事かな、少年?」
 聞き覚えのある声に、咄嗟に振り向く。
 
 そこに立っていたのは、今朝、洋菓子店で出会った男性だった。
「あなたは、今朝の!?」
「偶然だね。まさかこんな早くに再会できるなんて」
「今朝はどうも……。姉も喜んでましたよ」
「それはよかった。今頃病室で食べているところかな?」
 そう言って爽やかに笑う男性は、院内なのに何故か真っ黒なサングラスを掛けていた。
「それで少年、悩み事だろう?折角の美丈夫が台無しだぞ」
「それは……」
「聞かせてくれないか?彼女の定期検診が終わるまで、少し暇があるんだ」
 そう言って男性は、自販機からいちごミルクを購入すると、ストローを刺した。よく見ると、薬指には銀色の指輪が嵌っている。彼女……というのは、きっと婚約者だろう。
「どうしてそこまで?今朝出会っただけですよね?」
「出会いとは一期一会。沖縄には『いちゃりばちょーでー』という言葉もある。一度会ったら皆兄弟……それだけの出会いでも、俺には充分な理由なんだ」
 たった一度出会って、偶然また会っただけの俺を心配して、こうして相談に乗ろうとしてくれる。
 この人は何処までもお人好しな……いや、もしかしたらこの人も立花と似たもの同士なのかもしれない。
 それなら、断っても余計に心配されるだろう。それに、この胸のもやもやした感情を姉さん、特に立花に漏らす訳にもいかない。だったら、彼に聞いてもらうのが一番いいだろう。
 そう思った俺は、彼の提案を受けいれる事にした。
「わかりました。それじゃあ、聞いてくれますか……?」
「どうぞ」
「……っと、その前に、お名前をお伺いしても?」
「え……ああ、名前かぁ……そうだな……」
 そう言われるとその人は、一瞬困ったような顔をする。
 暫く考え込むと、やがて決心したように溜息を一つ吐いてから笑った。
「仲を継ぎ足し、千の優しさで人々を包む男……仲足千優(なかたりちひろ)だ。誰にも言うんじゃないぞ?」
「……え!?まさか、あのスーツアクターの!?」
 サングラスを外し、素顔を見せると人差し指を口元に当てる千優さん。
 まさかの有名人登場に、俺は困惑のあまり言葉を失った。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ