第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第35節「道に迷う者、導く者」
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ように悲しんだ僕は、その約束に縋る事でようやく立ち直った。
まだ、死んだとは限らない。絶対に何処かで生きているはずだ。
だから、僕が迎えに行く。世界中の何処にいても、必ず見つけてみせる。
そう誓って以来、僕は『王子様』を目指して来たんだ。
いつでもクリスちゃんを迎えに行けるように。いつ、クリスちゃんと再会しても、胸を張っていられるように……。
「彼もきっと、今日まで自分を磨いて来ているはずだよ。もうあの頃の弱い彼じゃない、立花さんに相応しい男になっているはずさ」
「響のために、自分を磨いて来た……かぁ。もう一度会ったら、印象も変わるのかな……?」
「きっと変わるさ、僕が保証するよ」
そこで一旦切ると、自分のカップに紅茶のおかわりを追加する。
香しい香りを吸い込んで啜るこの一杯は、やっぱり心を落ち着かせてくれる。
「それでも、もし、心の中の黒い部分が溢れてきそうになった時は……」
小日向さんがごくり、と唾を飲み込む。
正直なところ、このアドバイスが正しいかどうかは僕にも分からない。
けど、自分が信じる最良最善の言葉を、僕は彼女へと贈った。
「思い出して欲しい。自分が何故、その感情を抱いているのかを。理由を忘れた怒りほど、後で虚しいものだからね」
「わたしの感情の理由を、思い出す……」
……さすがに、難しかっただろうか?
このアドバイスが正しいかどうか、それは僕には分からない。
小日向さんの言うような、そこまでドス黒い感情を抱いた事のない僕は、月並みな言葉しか持ち合わせていないのだ。
小日向さんはどう受け取ったのだろうか……?
「うん、そうだよね。わたし、自分がどうして風鳴くんに怒っちゃったのか、それを忘れていたのかもしれない」
そう言って小日向さんは、ようやくいつもの明るい笑みを見せた。
「ありがとう、爽々波くん。お陰で楽になったかも」
「そうかい?それはどういたしまして。僕でよければ、いつでも相談に乗るよ」
「うん!……あ、そういえば特売!」
小日向さんに言われて時計を見ると、特売開始の時間がすぐそこまで迫っていた。
「これは急がないと!」
「ケーキごちそうさま!今度お礼させてね!」
「礼なんて要らないとも!君のたすけになったのなら、その笑顔が十分な報酬さ!」
ケーキの乗っていた皿には、フォークが置かれているだけ。
紅茶のポットは空っぽで、カップの中身も一滴さえ残っていない。
支払いを済ませた僕らは、いつものスーパーへと全力で走って行った。
病院の自販機で、カフェオレを購入して缶を開ける。
一口飲んで、一つ溜息を吐いた。
小日向に言われた"偽善者"の言葉が未だに、胸の中でぐるぐると巡っている。
確かに、俺の人助けは
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