第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第34節「衝突する好意」
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心に火を付けてしまった。
「君に響の何が分かるっていうのよ!あの日、あの時、辛い目に遭ってる響を見ていたのに助けようとしなかった君が!響がどんなに傷付けられても、前に出ていこうとしなかった卑怯者のくせに!」
「そっ、それは……俺だって出て行きたかったさ!でも、出来なかったんだ……。あの頃の俺は、心が弱かったから……出て行きたくても脚が震えて、動けなくて……」
「ッ……!」
知っている。その感情を、その気持ちを……その震えを、わたしは知っている。
それはあの時のわたしと同じ。響を支え続けはしたけれど、響の前に立って庇えるほど、わたしは強くなかった。
だからこそ、わたしはあのいじめに巻き込まれずに済んだ。だからこそ、わたしは響の友達でい続けられた。
だけど、心の何処かではやっぱり、強さを望んでいたんだ。
そして、前に飛び出そうとしては脚が竦んで動けなくなっている、同じクラスの男子生徒を見て……わたしは、その望みを彼に押し付けた。
身勝手なのは分かっている。だけど、踏み出せないわたしよりも、後一歩踏み出しさえすれば届く場所にいた風鳴くんに、わたしは期待してしまった。
わたしの代わりに、響を庇ってくれるんじゃないかって。
響の居場所になる事しかできないわたしの代わりに、響の盾になってくれるんじゃないかって。
……ただの押し付けだって、わかっているのに……。
「……言い訳なんて聞きたくない!この偽善者!!」
「ッ!!」
その時の風鳴くんの顔を見て、わたしは後悔した。
今の言葉は風鳴くんを一番傷付ける言葉だった……。それなのに……その言葉は身勝手なわたしの、汚い部分から出たものだって頭で理解していたはずなのに……。
わたしは、その言葉のナイフを躊躇い無く振り下ろしてしまった。
黙って立ち尽くすだけの風鳴くんが、なんだか怖くなって……わたしは、その場から逃げ出した。
本当に……わたしって、嫌な子だね……。
親友の大切な人に、こんな事言っちゃって……謝りもせずに逃げ出して……。
もう、消えちゃいたいよ……。わたし、どうすればいいのかな?
誰か……教えてよ……。
「偽善者……か……」
翔は走り去っていく未来の後ろ姿を、ただ見つめている事しかできなかった。
先程の未来の言葉が胸の奥に突き刺さり、重く、重く残響する。
その言葉は、言われても仕方ないことだと理解していた言葉だ。
それでもやはり、言葉にされてしまうと重みが違う。
「……俺は……偽善者、なのかな……」
未来が消えていった角を見て、誰にともなく独りごちる。
古傷を抉られたような気分で、少年は立ち尽くしていた。
どれくらい走り続けたんだろう。気が付いたら、いつもの商店街の真ん中だった
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