第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第34節「衝突する好意」
[2/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
とか人に誇れるものなんてないから、せめて、自分に出来ることで皆の役に立ててればいいな〜って。えへへ、へへ……」
そう言って窓の外の青空を見上げながら笑う響を、翼は見つめる。
競い合わなくても……誇れるものがない……そして、皆の役に立つ……。
これらの言葉に、翼は底知れぬ闇を感じずにはいられなかった。
以前、翼は翔に響との出会いについて尋ねた事がある。その時聞いた話は、あまりにも凄惨なもので……13歳の少女の心を壊すには、充分過ぎるほどのものだった。
それを踏まえた上で聞いたこの言葉に、翼は翔を重ねる。
やはり、この2人はよく似ている。翼はそう確信していた。
「……でも、きっかけは、やっぱりあの事件かもしれません」
響が遠い目で語り始め、翼も夢の中でさえ見たあの日を思い返す。
「わたしを救う為に奏さんが命を燃やした、2年前のライブ。奏さんだけじゃありません。あの日、沢山の人が亡くなりました。でも、わたしは生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯を食べたりしたいから」
穏やかな顔でそう語る立花に、翼は再び考える。
やはり、彼女は少しだけ、自己評価が低いのかもしれない。周囲からの激しい迫害が、彼女の心に深い傷を作っている。
そして、それが意味するところは即ち……。
「あなたらしい、ポジティブな理由ね。だけど、その思いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」
「自殺衝動?」
「誰かのために自分を犠牲にする事で、古傷から救われたいという、自己断罪の表れ……なのかも」
そう。私や翔と同じだ。自分を犠牲にする事で、あの日の後悔から救われたい……それらと同じ思いが、この子の中にも存在している。
立花響もまた、私達と同じ十字架を背負っているのだ。
「あのぅ……わたし、変な事言っちゃいましたか?」
「え?……ううん。あなたと私、それに翔はよく似ていると思っただけよ」
「わ、わたしと翔くんと翼さんが……?」
「ええ。経験者だもの、分かるわよ」
自嘲気味に苦笑しつつ、私は続ける。
「でも、そんなあなただからこそ、尚更似合う娘は他に居ないわね」
「へ?」
「好きなんでしょ、翔の事」
「ふぇぇぇぇ!?ななっ、そっ、それは……その……」
包み隠しもせずにそう言うと、立花は途端に真っ赤になって慌て始めた。
可愛らしい……そのまま抱き締めて、撫でくり回してしまいたいくらいだ。
「事ある毎に翔と睦み合っているらしいじゃないか。……乳繰り合う、とまでは行っていないんだな?」
「乳繰りッ……!?って、どど、何処からの情報なんですかそれ!?」
「無論、緒川さんと櫻井女史だ。特に昨日のデュランダル輸送の際は、2人で抱き合って眠っていたと
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ