第4楽章〜小波の王子と雪の音の歌姫〜
第32節「兆しの行方は」
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山奥の洋館。銀髪の少女……クリスは、洋館の裏手にある湖にかけられた桟橋から、日の出を見つめていた。
(──完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要だと、フィーネはいっていた……。あたしがソロモンの杖に半年もかかずらった事を、あいつはあっという間に成し遂げた……無理やり力をぶっぱなしてみせやがったッ!)
「……バケモノめッ!」
手に握っている、今は持ち運びやすいように変形しているソロモンの杖を見つめる。
「このあたしに身柄の確保をさせるくらい、フィーネはあいつにご執心ってわけかよ……。フィーネに見捨てられたら、あたしは……」
8年前、目の前で両親を失ってからの5年間を思い出す。
捕虜にされ、ろくな食事も与えられず、他の子供達が暴力を振るわれ、何処かに連れて行かれる姿を見て怯え続けた日々。
思い出す度に、この世界への怒りと大人への不信感が募っていく。
同時に、もう二度とあんな惨めな生活には戻りたくない、という思いが膨らんでいく。
ひとりぼっちになんか、なりたくない。あたしにはもう、フィーネしかいないんだ。
もし、フィーネの興味が完全にあいつに映っちまったら、フィーネはもうあたしに固執する理由がなくなっちまう……。
「…………。そしてまた、あたしはひとりぼっちになるわけだ」
昇る朝日を見つめるクリスの背後に、音もなく忍び寄る影。
気付いたクリスが振り返ると、丈の短い真っ黒なワンピースに身を包んだフィーネが、朝の涼風にその金髪を靡かせていた。
「──わかっている。自分に課せられた事くらいは。こんなもんに頼らなくとも、あんたの言うことくらいやってやらぁ!」
そう言ってクリスらは、ソロモンの杖をフィーネの方へと投げる。
微動だにせず、それを受け取ったフィーネは、煽るように問いかけた。
「ソロモンの杖を私に返してしまって、本当にいいのかしら?」
「あいつよりも、あたしの方が優秀だって事を見せてやる!あたし以外に力を持つ奴は全部この手でぶちのめしてくれる!それがあたしの目的だからなッ!」
目の前で宙を掴み、拳を握り締めるながらクリスはそう言い放つ。
その憎悪に満ちた目を、フィーネはただ妖しく微笑みながら見つめていた。
「はッ!ふッ!」
弦十郎の自宅では、今日も朝早くから響がサンドバッグ打ちを続けていた。
朝日に汗の雫が舞い、掛け声勇ましく繰り出された拳にサンドバッグが揺れる。
「そうだ!拳に思いを乗せ、真っ直ぐに突き出せッ!ラストッ!大地すらねじ伏せる渾身の一撃を叩き込めッ!」
「はい、師匠ッ!──はああッ!」
最後の一撃が決まり、サンドバッグが一際大きく揺れる。
「よし、サンドバッグ打ちはここまで!ごくろうだったな。そろそろ休憩にするか?」
「はあ…
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