第1楽章〜覚醒の伴装者〜
番外記録(メモリア)・夕陽に染まる教室
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
放課後、誰もいなくなった教室でただ一人。呪文のように、同じ言葉を繰り返しながら机を吹いている少女がいた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
机には油性ペンで書かれた罵詈雑言の数々。机の隣には大量の週刊誌と新聞が積まれており、そのどれもが流麗な文章に彩られた同じ話題の記事ばかりだった。
ライブ会場の惨劇。その被災者達への心無い迫害の象徴にして元凶たる、悪意のマスメディア。小さな教室に渦巻く暗黒を生み出した種が、そこには積まれていた。
「へいき、へっちゃら……へいき、へっちゃら……」
少女、立花響はこの中学校の中でほぼ孤立していた。
彼女もまた、ライブ会場の惨劇を生き延びた被災者の一人だ。親友の小日向未来が急な用事で来られなかった為、一人でツヴァイウイングのライブに向かった彼女は、会場を襲ったノイズの群れにその運命を狂わされた。
逃げ遅れ、心臓付近に突き刺さった破片により大量出血を引き起こした彼女は入院後、緊急手術室の中でなんとか息を吹き返した。
それから、彼女は一生懸命にリハビリを続けた。家に帰って、また家族皆で暮らす為に。優しい両親と祖母、四人で過ごす平穏な日々へと戻る事を夢見て。
しかし、社会はそんな少女の小さな夢を踏み躙る。
退院した彼女を待っていたのは、人々からの心ない迫害と罵倒の数々だった。
家には口悪い言葉ばかりが書かれた大量の張り紙が貼られ、窓からは石を投げ込まれた。
学校に行けば生徒は全員、ノイズの恐怖への憂さ晴らしの為に彼女を虐げた。
机に落書きは当たり前。惨劇の被災者らを貶める記事が見出しとなった週刊誌で机を埋め、学生鞄に針で呪詛を刻み、皆がそんな彼女を嘲笑った。
会社でも白い目で見られるようになった父が失踪し、彼女に残された心の支えは母と祖母、陸上部の親友、そして大好きなご飯だった。
それでも彼女は自分の弱さを、涙を流す姿を晒すことは無かった。
ただ一言、口癖のように呟き続けては、親友に笑いかけて見せるのだ。
「へいき、へっちゃら」だと……。
今日も一人で教室に残り、親友が部活から戻って来るのを待ちながら、その時間までに机の落書きと戦っている。
そんな彼女を先程から、隠れるように見ている生徒がいた。
やがて少年は何かを決心したように深呼吸すると、俯く彼女に声をかけた。
「立花さん……」
「へいき、へっちゃら……えっ!?だっ、誰!?」
「僕だよ、清掃委員の風鳴翔」
「え、ああ……どうも」
少年……もとい、当時14歳の風鳴翔は洗剤入りのバケツとスカッチを手に、ゆっくりと教室へ入る。
「もしかして、僕の名前を覚えていなかったりする?」
「あ〜……うん。あんまり話した事ないから
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ