第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第10節「溢れる涙が落ちる場所」
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。
だから、その一言で片付けようとする立花を俺は放っておけなかったのだ。
「へいき、へっちゃらじゃない!辛い時は泣いていいんだ……痛かったら叫んでいいんだ!一人で抱え込もうとするな!もっと……もっと周りを頼れ!必要以上に堪えるな!」
「翔くん……」
「君が辛い目に遭う姿を見るのは、俺にとって苦痛の極みだ。でも、それ以上に君が辛さや苦しみを堪えようと、一人で俯いてる姿を見るのはもっと辛いんだ……だから!」
その言葉はとても簡単に、意識せずともするりと口から出ていた。
胸の誓いは嘘偽りなく、俺の想いを言葉に変えた。たとえその言葉の本意に、俺自身が気付いていないとしても……彼女の胸には確かに響いたと思う。
「せめて俺の前では、自分に素直な立花響で居てくれ……」
彼女の両手をぎゅっと握って、透き通るような琥珀色の瞳を真っ直ぐ見つめ、俺は一言一句ハッキリと言いきった。
数秒間の沈黙が流れる。流石に気障っぽかっただろうか?
「いや、いつも素直な立花にこういう事を言うのは門違いか?すまない、いきなり妙な事を……った、立花!?」
「あれ……私……なんで……?」
自分の頬に手を添えて、指先を滴る雫を見てようやく立花は気がついた。
いつの間にか、その瞳の端から涙が零れている事に。
「あれ……あれ……?なんでだろ、涙が……止まらないよ……」
「……立花」
今度は俺が、立花の背中に手を回していた。
彼女が痛がらないように力は抜いて。そっと、優しく、包み込むように抱き寄せる。
「さっきのお返しだ。涙が止まるまでは、俺の胸を借りていけ……」
「んぐっ……ひっく……ありがと、翔くん……」
それはきっと、この2年分の涙。心のダムにせき止められていた涙が、今になって溢れ出しているんだ。
俺も彼女も、きっと同じだったんだ。
同じ学び舎で、形は違えど同じものに苦しめられて、角度は違うけど同じ痛みを知り、同じくらいの涙を溜め続けた。
でも、もういいんだ。俺達は二人とも、涙を流さず進み続けるという虚勢を張り続け過ぎた。そんな日々は今日で終わる。過去の痛みを抱いて前に進む、という点では変わらないが、虚勢の負債はここで全て流してしまおう。
漸く素直に泣いてくれた彼女を見て、俺は心から安心した。
彼女の心が軋んでしまう前に、その強さで輝きが翳ってしまう前に彼女を支えられた。いつもの自己満足かもしれないけれどこの瞬間、俺はようやく彼女の手を握る事が出来たのだ。
「……立花、もう大丈夫か?」
「ん……もうちょっとだけ……」
立花が俺の背中に再び手を回す。立花の背中に回した自分の右手を、彼女の頭に置く。
それから暫く、俺の制服は立花の涙で濡れる
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