第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第10節「溢れる涙が落ちる場所」
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んだよ。でも、心配してくれてありがとう。その気持ちだけで私は、お腹いっぱいだから」
その一言で、僕の心の中で何かが崩れた。
涙がどんどん溢れ出して、声が詰まってはむせ返る。
みっともない姿を晒してしまった、などと考える間もなく。強くありたいと願ったあの日から被り続けていた虚栄の仮面は、見る影もなく剥がれ落ちた。
……身を包む温かくて、柔らかな感触に顔を上げる。
頬に触れているのが髪だと気がついた時、今の自分の状況を認識した俺は慌てた。
「たっ、立花っ!?」
「迷惑だったらごめんね?でも……翔くんが泣いてるとこみたら、何だか放っておけなくなっちゃって」
「……まったく……立花は、どこまでもお人好しなんだな……」
まだ少し弱々しさが残る声でそう言うと、立花は静かに答える。
「そう言う翔くんは、意外と泣き虫なんだね」
「姉さんに似たのかもな……。姉さんも、奏さんからよくそう言われていたよ……」
「翼さんも?人って見かけによらないなぁ……」
「どうもそうらしい……。ありがと、元気出た」
そう言うと、立花はようやく俺の背中に回した手を離した。
改めて立花と向かい合う。
「もう大丈夫?」
「ああ……2年間背負い続けた肩の荷が降りた気がするよ」
「そっか……。よかった」
立花は俺の事を恨んでもいなかったし、忘れてもいなかった。思い出すのに時間がかかったのはきっと、あの頃の記憶に蓋をしているからだろう。
多分、それは俺も同じだ。辛い思い出ばかりだと思って蓋をしていた記憶の中に、僅かだけれども光があった。
ただ一度の、だけどとても強い勇気。この思い出はかけがえのないものだ。二度と忘れないようにしなくては、と心に刻む。
そこでふと考える。立花の方はどうなのか、と。
「なあ、立花……君は辛くないのか?」
「え?辛いって、何が?」
「何が?じゃない。あの頃、直接迫害を受けていたわけでもない俺がこうなんだ。君の方が泣きたい瞬間は沢山あった筈なのに、あの頃の君は一度も泣かなかっただろ?」
「ああ、その事かぁ……」
立花は納得したように首を縦に振ると答えた。
「確かに辛かったよ。でも、私は大丈夫。へいき、へっちゃらだから!」
「……大丈夫なわけ、ないだろう!!」
次の瞬間、俺は立花の両手を握っていた。突然の事に驚き、目を見開く立花。
へいき、へっちゃら。それはあの頃の立花が、呪文のように繰り返していた言葉だ。
まるで自分に言い聞かせるように、何度も何度も繰り返していた言葉。
立花にとっては自分を奮い立たせる為の言葉だったのかもしれないが、あの頃の彼女を見ていた俺にとってその言葉は、一種の呪いのようにさえ見えた
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