第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第7節「頑固な剣(あね)との向き合い方」
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ない。むしろこの空気には、心地良ささえ感じる。
あの日、ただ陰から見ているだけだった立花響という少女がどんな人となりをしているのか、今になってようやく分かった気がする。
ついでに、あの頃の俺は意外と彼女の事を見ていなかったのだとも実感した。
こんなにいい子なんだ。あの惨劇さえ無ければ、きっとクラス一番の人気者になったかもしれない……。
けど、きっとその"もしも"は必要ない。
だって、彼女は今を生きているのだから。……まったく。負い目だのなんだのと悩んでいた自分がバカらしくなってくるじゃないか。
仕事の時間までの合間に、本部のシュミレーターで一汗かいてシャワーを浴びる。
毎日欠かさず行っている鍛錬を終え、喉の渇きを潤そうと休憩スペースに向かうと、何やらいつもより騒がしい。
「む?先客か。この声は……」
耳を澄ませながら近付くと、声は二人分。私より歳下の男女の声だった。
……待て。私より歳下で二課に出入り出来る者など限られている。
一人は立花。そしてもう一人はまさか……?
足音を忍ばせ近付くと、視線の先には予想通りの、それでいて並んでいる所を見るのは初めてな二人がいた。
「立花と翔、か。一体何を話しているんだ?」
昨日、弦十郎叔父様に二課への配属を頼みに来るとは聞いていたし、あの二人が中学時代の学友同士だったとも聞いている。
しかし、笑い合いながら談話する二人を取り巻く雰囲気は、とても楽しげだった。
久方ぶりの再会に積もる話がある、という考えに至るのが普通の筈だ。
だが私は、昨日の緒川さんが言っていた一言──「おそらく彼は、響さんの事が好きなんだと思います」──あの一言が気にかかり、こう考えていた。
もしや、二人で逢い引きの約束でもしているのではないか……と。
そうだとすれば、私はこの場を去るべき筈だ。
しかし……姉としては、どうしても気になってしまうのだ。
弟は……翔は、立花とどのような言葉を交わしているのだろうか……?
「食べに行くとして、何にする?店ではなく、鍋パやたこパという手もあるが……」
「ふらわー、って美味しいお好み焼き屋さんの店があるんだけど、どうかな?」
「へぇ、そんなに美味いのか?」
「おばちゃんのお好み焼きは世界一だよ〜!行ったことないの?」
「店の名前自体が初耳だ」
「じゃあじゃあ、今度下見って事で食べに行きません?」
……会話がはっきりと聞き取れる位置まで辿り着いて早々、私は度肝を抜かれた。
これは……間違いなく逢い引きの相談!
しかも立花のやつ、誘い方が思った以上に自然かつさり気ないぞ!?
もう少しド直球で誘う性分だと思っていたのだが、人は見かけによらないな……。
さて、翔の方は……。
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