第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第4節「臆病者の烙印」
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「今日も来たんだ。社会のゴミのくせに」
「何の取り柄もないくせして、よくのうのうと生きてられるよね」
謂れの無い中傷を一身に受け、立ち尽くす少女。当時13歳の立花響である。
彼女の机は一面、黒の油性ペンで書かれた罵詈雑言で汚されていた。
『人殺し』『金どろぼう』『お前だけ助かった』『生きる価値なし』『死ねばよかったのに』……その他諸々。
数えるのもおぞましく、全部読めば心が軋む事は間違いないだけの悪意が、そこにこびり付いていた。
一体、何故彼女だけがこんな目に遭わなくてはならないのか……。
事の発端は、〈ライブ会場の惨劇〉からしばらく経った頃。ある週刊誌が掲載した惨劇の被害内容について、ある事実が発覚した事が切っ掛けだった。
ライブ会場には観客、関係者あわせて10万を超える人間が居合わせており、 この事件は死者、行方不明者の総数が12874人にのぼる大惨事だった。
しかし、被害者の総数12874人のうち、 ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度であり、 残りは逃走中の将棋倒しによる圧死や、 避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死だと判明したのだ。
その事実はあっという間に国内全域へと広まり、一部の世論に変化が生じ始める。
具体的には、死者の大半が人の手によるものであることから、 惨劇の生存者に向けられた心無いバッシングが始まり、そこへ被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、事件に全く関わりのない者達から被災者、及びその遺族らへの苛烈な自己責任論が展開されていったのだ。
やがて捻れ、歪み、肥大化した人々の感情は、被災者らをただ「生き延びたから」という理由だけで迫害するようになっていった。
ある種の憂さ晴らしでしかない筈のその行為。しかし、集団心理とは恐ろしく、いつの間にか世の中にはそれが正義であるという風潮がまかり通るようになって行った。
そして、立花響もまた、そうやって迫害された被災者の一人だった。
ライブ会場の被害者の中に、この中学校に通う一人の男子生徒がいた。 彼はサッカー部のキャプテンであり、将来を嘱望されていた生徒だった。俺も顔は知っていたし、名前もよく聞いていた。校内のスターとも言える存在だったのを覚えている。その彼は、不幸にも惨劇の中で亡くなった。
立花が退院して間もなく。少年のファンを標榜する一人の女子生徒のヒステリックな叫びが、その引き金を引いた。
なぜ彼が死んで、取り立てて取り得のない立花が生き残ったのか。彼女により、立花は毎日のように責め立てられる。
やがて、その攻撃は全校生徒にまで広がっていくのであった。
気付けば立花は、校内のほぼ全ての生徒からの悪意を一身に受けていた。
特にクラスメイトからの攻撃が最たるもの
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