第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第2節「過去からの残響」
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「ふへへへへ、たんまりあるじゃねぇか」
男はこじ開けたレジの中身を見てほくそ笑んだ。
ノイズ襲来で、店員を含めた周辺の市民は全て避難している。今なら人目を気にすることなく、堂々と盗みを働けるのだ。
警察さえ、ノイズが現れれば特異災害対策機動部が掃討するまでは動けない。
今この瞬間は盗人天国。泥棒し放題というわけだ。
「まったく、ノイズ様々だぜ。対策機動部には感謝しなくちゃな」
レジの中から紙幣を鷲掴む。万札、千札を何枚も握った感触が男を満足させる。
「さて、ノイズの誘導は向こうだから……もう一件くらい盗んでもいいよな?次はこの先のCDショップでも狙ってみるか!」
「随分と楽しそうだな」
「あぁ?」
突然、店内に響く入店音と若い声。男が顔を上げると、自動ドアから入って来た声の主は一瞬でカウンターの上へと飛び乗る。
「ふんっ!!」
次の瞬間、男の身体は左方向へ勢いよく吹っ飛んだ。
「ごっ!?」
カウンターに飛び乗った少年は、男の顔を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
高く安定した足場から放たれた回し蹴りは、その威力を男の頭部へとダイレクトに伝える。男が掴んだ紙幣が手放され、レジ奥を舞う。
少年はレジの奥へと降りると、宙を舞う紙幣を一枚一枚、全て地面に落ちる前に拾い集めると、そのままレジへと戻して行った。
「な、なんだお前……なんでこんな所にガキが残ってやがる……!」
「運が無かった……いや、むしろ幸運だったな。戦場でノイズに殺されるより、その天命との決別が暫し遠のいたんだ。感謝してくれてもいいんじゃないか?」
「チッ!何処のお坊ちゃんだか知らないが、邪魔するんじゃねぇ!!」
男は右頬を抑えながらよろよろと立ち上がり、ポケットから折り畳みナイフを取り出すと、少年へと突き出す。
狭いレジ奥。通路は一直線。ナイフは少年の腹部へと真っ直ぐに突き進んで行った。
「やれやれ……この程度、鞘でド突けば充分か」
次の瞬間、少年は素早く身を逸らしてナイフを避け、男の手首を腕の関節で挟み込むと、そのまま右手で男の左腕を掴み動きを封じる。
更には男のふくらはぎを踵で引っ掛け、体制を崩した瞬間、腕を背中に回させると、そのまま一気に抑え込んだ。
わずか一瞬で取り押さえられた上、ナイフを没収される。流れるような少年の動きに、男は困惑した。
「なっ……なんなんだよ!?お前本当に何なんだ!タダの糞ガキじゃねぇのか!?」
「知らないのか?飯食って映画観て寝る。男の鍛錬はそれで充分なんだよ!」
「訳の分からんことを抜かすな!!」
「分からなくて結構。実は俺もよく分からん」
「はぁ!?」
訳が分からない、という顔で困惑する男。
少年──風鳴翔は、そんな男の顔を見て一瞬だけ笑った。
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