暁 〜小説投稿サイト〜
戦姫絶唱シンフォギア〜響き交わる伴装者〜
第1楽章〜覚醒の伴装者〜
第1節「掴めなかった手」
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 今でもふと、その表情が浮かぶ度に悔しさが込上げる。

 己が無力を痛感し、あの日の自分を呪っては唇を噛み締める。

 どうして俺は、自分を奮い立たせられなかったのだろうか……。思い返す度にやり場のない怒りが身体を駆け巡り、握った掌に篭っていく。

 あの娘はずっと我慢していた。怒っていい筈だし、泣いていい筈だった。でも彼女は最後まで、人前で泣くこともなければ怒りをぶつける事もなく、ただ哀しげな目で俯いているだけだった。

 ただ一度だけ言葉を交わした時も、強がって笑っているだけの彼女を見た時は、胸が締め付けられる感覚があった。

 何故、彼女ばかりがあんな目に遭わなくてはならなかったのか。

 何故、俺は彼女の前に飛び出して、あの教室の百鬼夜行共を一喝してやれなかったのか。

 何故俺は、彼女の手を取る事が出来なかったのか……。

 後悔がぐるぐると渦を巻き、喉を通して溢れ出しそうになりながら、空を見上げる。

 西の空には沈みかけた夕陽。綺麗に輝いてこそいるものの、夜の帳に覆われて、今にも消えそうなところがあの日の彼女にそっくりだ。あの日の放課後の窓も、この空と同じ色に染っていた。

 あの娘は今、何処で何をしているのだろうか。

 今の彼女は心の底から、笑顔で暮らしているのだろうか。

 もしも、またあの娘に会えるのなら……俺は──
 
 
 
 午前中の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
 教科書と筆箱を学生鞄へと片付け、学食へと向かおうと席を立つと、あいつは予想通りの時間ぴったりにやって来た。
「翔〜!いるよね?」
「ああ。すぐ行く」
 手を振りながら教室に顔を覗かせる親友に応え、財布の中身を確認しながら教室を出る。
 いつも人懐っこそうに笑っているこいつは、この学院で最初にできた友達の爽々波純(さざなみじゅん)
 なんでも両親のどっちかがイギリス人だとかで、くせっ毛一つ見当たらない金髪はもちろん地毛。海の底みたいな紺碧の瞳に整った顔立ちに、黒縁の眼鏡が大人びた雰囲気を醸し出している。全体的に見てイケメン、いわゆる王子様系男子。
 クラスは違うけど、同じ寮で同室を割り当てられた事で知り合ってから、こうしてよく一緒に行動するようになった。今では一番の親友だ。
「今日のお昼はどうする?」
「食堂で日替わり。お前は?」
「奇遇だね。僕も同じものを頼もうと思ってたんだ」
 廊下を歩きながらのたわいもない歓談。昼餉の匂いに眼を開き、腹の虫が嘶きおる。
「授業終わったら、CDショップにでも寄るのかい?」
「当然だろ?姉貴の新曲だ。弟として、親父に代わり買いに向かう義務がある」
 俺の姉、風鳴翼(かざなりつばさ)はこの学び舎の姉妹校、私立リディアン音楽院高等部の三年生。この日
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