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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十四話 虎城防衛線会議
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ない。この地位について十年ほどだが重臣達は父を主と仰いでいる。いや、だからこそこの程度で済んでいるのかもしれない、とも思っている。

 保胤も英康も一通りの挨拶を終えたらそそくさと席を立っていった。彼らは常に精力的に動いている、どちらも当主代行という立場は同じなのにこうも違うものか、と陰鬱な気分を弄びながら腰を上げると西原の老公が自分に向けてちょいちょと手招きをしている。
「君には苦労を掛けたようだな、清磨君。志倉総長が来るものだと思っていたが」
 志倉総長は宮野木家の分家筋でよく言えば無難、悪く言えば押しの弱い人柄だからこそ軍監本部総長に任命された人間だった。総長としての威厳は皆無に等しい。そうでなければこの場に出て守原と宮野木の支持を受けながら議論を主導しているはずだ。
「はい、閣下。志倉総長閣下は兵部省で後備と衆兵隊の動員に関する会議のようで」
 龍州軍壊滅の影響は大きい、さらなる後備役動員やら火砲の増産やらの手当てに関する予算を大急ぎで進めている。背州後備も動員を進めているのだが父の和磨の腹心達が動いているらしい、まぁ後備に編入された退役将校達の年齢層を考えればその方が良いのだろう、と思っている。――いや、それは言い訳だ。元から宮野木の本貫の軍たる背州軍を率いる自分も志倉と大して変わらない、州の統治は父である宮野木和磨の下で官僚団がとり行っており、政治的な動きは全て父の下で行われている。将校たる重臣団も同じく父の下で政治屋気取りが動き回っている
 自分は官僚制度に必要な題目としてここにいるだけだ。
「軍監本部も冬に向けて大忙しだな。予算を動かすのも一苦労になってしまったか」「何しろ戦争でありますので」
 五将家が何もかも采配できた時代はとうに終わっている。西州公は何かをかみしめるように和磨に視線を注ぎながら顎を撫でている。
「国家間の、それもツァルラント大陸最強最大の〈帝国〉を相手にした戦争であるからな、御国の何もかもを戦争に回すことになるか」
「はっ」「御国もこの戦の前ですら少しづつだが確実に変わっていたものだ、ましてやこの冬は長い――」
 西原信英の口調は往年の将家の当主たるそれになっていた。
「――君も身の振り方を考えておいた方が良いだろう、君のやり方は間違ってはいなかったが――この先はわからぬよ。何かあれば私の息子に話してみるといい、あぁアレは不真面目だがアレなりに考えているでな」
「考えておきますが――」「父が怖いか」
「父は当主です。えぇ宮野木の者達にとっては父が主君なのです」
 貴方達にとってもそうだろう、と喉元まで出た言葉を飲み込む。
 ふぅ、と老いた公爵大将はため息をついた。
「忠告はした、君は陸軍中将でもある、その意味を忘れぬことだ――」



同日、午後第五刻 蝙関郊外 
駒州公子 
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