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戦国異伝供書
第六十二話 赤と黒から黄へその十

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「出来るだけでおじゃる」
「酒は、ですか」
「飲める様になれば」 
 その時はというのだ。
「自重するでおじゃる」
「長く生きる為にも」
「長く生きる為なら」
 その為ならとだ、彦五郎はさらに話した。
「酒は自重して他のことも」
「自重すべきですか」
「そうでおじゃる、だからこそ」
「それがしもまた」
「そなたは長生きないと駄目でおじゃる」
「では剣術も」
「剣術?そういえば」 
 竹千代がここで剣術と言ったのを聞いてだ、彦五郎は眉を動かした。それだけでなくこうも言うのだった。
「そなたの祖父殿と父君は」
「殺されましたので」
「あれは痛ましいことであった」
 雪斎も眉を伏せて述べた。
「そなたの祖父殿は家臣の者に後ろから切られな」
「殺されました」
「そうであったな、父君も」
「家臣に刺し殺されました」
「祖父殿は二十四の若さであった」 
 将来はどうなるかと言われたまでの人物であったがその若さでそうなってしまった。松平家にとっては痛恨のことだった。
「そして父君もな」
「二十五でした」
「あまりにも若い」
 それこそとだ、雪斎は竹千代に話した。
「お二方が若し剣術が巧みなら」
「それならばと思っています」
「それはその通りやもな」 
 雪斎も否定しなかった。
「お二方がじゃ」
「剣術に巧みなら」
「それぞれ難を避けられていたやもな」
「後ろから切りつけられていても」
「いきなり襲われていてもな」
 剣術に巧みならというのだ。
「避けられていたと思うからか」
「それがしもです」
「なら剣術を鍛えよ、ただな」
「ただといいますと」
「生きる為には剣術よりも身に着けるべきものがある」
 さらにとだ、雪斎は竹千代に教えた。
「二つな」
「その二つは」
「馬術と水練じゃ」
 この二つだというのだ。
「むしろ剣術以上にな」
「身に着けるべきですか」
「そうじゃ、確かにいきなり襲われた時は剣術で対するしかないが」
 それでもというのだ。
「それよりも戦の場や難儀な時に逃げる為にじゃ」
「馬術と水練ですか」
「逃げる時は一人じゃ」
 だからだというのだ。
「それでじゃ」
「その二つをですか」
「備えるべきじゃ」
「逃げる時は一人ですか」
「そうじゃ、己の身だけでじゃ」
「そう言われますと」
「わかるであろう」
 竹千代もとだ、雪斎は彼に問うた。
「そのことは」
「言われてみますと」
「だからな」
「馬に乗り」
「泳げる様になってな」
 そのどちらもかなりの技量に達してというのだ。
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