episode10『鬼の居ぬ間に』
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中が総毛立ち、四肢に、二十の指に、無数の糸が括りつけられたかのような奇妙な感覚。前後左右、無数の方角へ張り詰める何かに、全身を軽く引っ張られるような、そんな感覚だった。
不意に、シスターの顔が脳裏に浮かぶ。聖憐に出向く直前に、玄関で軽く会話を交えたときの記憶だった。
ヒナミの顔が浮かぶ。出発前、洗面所で身支度を整えていた時にばったりと出くわしたときの記憶だった。
マナの顔が浮かぶ、シュウヤの顔が浮かぶ、教会に暮らす家族たちの顔が順々に浮かんでいく。それだけではない、白崎夫妻、近所に暮らす心優しい老夫婦、よく使うコンビニに勤めている気のいいおばさん、果てには関わったことも忘れていたような懐かしい顔、たった一度すれ違っただけの人達、逢魔シンという人間が生まれてきて今までに出会ったことのある無数の人々の姿がフラッシュバックする。
記憶が手繰られていく、深く、深く、深く。
「鍛鉄――『一期一会、我が眼、えにしを辿る瞳なれば』」
「……ぇ」
サトリが静かに、その名を謳い上げると同時。
シンの意識は、途切れた。
――――――――――――――
「あ、目が覚めましたか?お疲れさまです、もう検査は終わりましたよ」
想い瞼を開けると、すぐに頭上からこちらを見下ろすサトリの顔が目に入った。
体が少しだるい、若干の疲労感が全身に広がっている。肩から下に掛けては何やら暖かな感覚に包まれていて、心地よい手触りの布が手に触れる。どうやら、眠ってしまったシンを気遣って毛布を掛けてくれていたらしい。周囲をざっと見渡したところ、アザミはもう居ないようだった。
と、後頭部に存在する柔らかな感触に気付く。我ながらなぜ今まで気づかなかったのか、どうやら膝枕をされているらしかった。
慌てて飛び上がる。あまりにも気が動転していたせいか、ソファからずり落ちて隣の机の角に思いきり頭をぶつけてしまった。ごすんと鈍い音がして、頭にきつい衝撃が走る。
くらくらする頭に手を添えてよろよろと立ち上がると、くすくすと笑うサトリの姿が見えた。あまりにもあんまりな自分の行動を振り返って赤くなる、恥ずかしい。
「あら残念、もう少し横になってても良かったんですよ?」
「……か、揶揄わないでください。それで検査って、結局何だったんですか」
「え、学園長に聞いていません?何も?」
シンがこくりと頷くと、彼女はなにやらせわしなく視線を右往左往させると、やがて大きなため息をついて頭を抱える。「典さんの馬鹿ぁ……どうしてそういうこと私にさせるんですか、もぉー……」なんて小声で愚痴のように漏らしたサトリは、しばらくたっぷりと時間を使って悩
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