episode10『鬼の居ぬ間に』
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れで、場所によっては汚れてしまっていた。
コートには大きなファーの付いたフードが目立ち、更にその上から首元には薄ピンクのマフラーを巻いていた。手もモコモコの手袋で覆っているらしかったが、その八割はコートのポケットに突っ込まれていて見えない。
時期が時期なので寒いのだろうが、そうは言っても室内だというのに随分な重装備だ。寒がりなのだろうか。
「あ、来た来た。いいタイミング。ごめんね薊、こんな日に呼び出しちゃって」
「……構わない。彼が、例の?」
「うん、逢魔シン君。学園長が言ってた子よ」
アザミと呼ばれた魔女は女性の隣に座ってちらりとシンを一瞥すると、次いでシンの全身をゆっくりと見下ろしていく。何やら眉を顰めて腹立たし気な気配を感じたが、何か失礼をしてしまっただろうか。
「……何と、酷な」
「え?」
ぽつりと何かを呟いたらしいが聞き逃してしまって、ついつい聞き返す。だが彼女は小さく首を横に振ってから表情を優しげな笑顔に変えると、今度はシンにもしっかりと聞こえる声で話し始めた。
「……いいや、何でもない。ジロジロと不躾にすまないな、私は花宮薊という」
「あ、そういえば私も自己紹介がまだでしたね、九条悟といいます。お察しの通り、薊とパートナーを組んで、白崎学園長の下、製鉄師をしています」
隣に座るアザミをガバっと抱きしめて「仲良しなんですよぉ〜」なんて上体を揺らすサトリに、アザミはなにやら諦めたような表情で、真顔且つ無言のまま揺らされている。確かに仲は良いのだろうが、随分と振り回されているであろうことはこの様子を見るだけでも何となく察せられた。
暫くするといい加減アザミもピキリと青筋を立てて腕を振りほどくと、「いい加減にしろ」と苛立ち交じりに何度も拳骨を脳天に落とす。まぁ魔女の小柄な体躯、しかもあそこまでモコモコの手袋だとダメージは知れているのだろうが。
「……全く、話が進まんだろう。さっさと済ませるぞ」
「あたたた……分かってますぅ!ちょっと緊張してるみたいだからリラックスっさせてあげようっていうお姉さんなりの気遣いをしてただけですぅ!」
ぶーぶーと不満を全身に表しながら立ち上がったサトリはシンの座るソファの後ろに回ると、「ちょっとだけそのままで居て下さいねー」なんて言ってシンの頭に手のひらを添えた。
一体何を、と声を発する前に、ふわりと不思議な感覚が全身を包む。
「精錬開始。我が瞳に糸を結び」
「精錬許可。汝が糸を共に括らん」
サトリの声に応えるように、アザミが鋼の祝詞を謳う。ぞわりと体
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