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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十三話将家という生き物
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臣から探るようなそれを向けられることはあっても直接ぶつけてくる人間は少ない。ましてや自分より年下の若手からとは!

 ――幼いころは物静かな秀才肌だった。打てば響くといえば聞こえは良いが、誰かに話しかけられなければそっと従卒のように後ろに控えているような子供だった。父である豊守は「いっそ学者か文官にした方が良いだろう」などと子が六つになる前から言っていたのもただ子煩悩だからというものではなかった。自身が戦傷で杖に頼らねば歩けぬ身となったのだからそれも仕方あるまい、とも思ったが将家たる周囲の家臣団は”気持ちはわかるが義務は義務である”と公然と”忠告”していたものだ。ましてや本人が”仕えられぬのであれば猶更だ”とまで言い張った連中もいたな。父の怒りに触れて大人しくなったが。

「剣虎兵の扱いを実戦で一番心得ているのは君だ。そして直衛と合わせて行動するのも北領で共に戦った君でないと難しいだろう。あぁ――そうだ、それになによりだ――」
 ――あぁそれがいつの間にやら直衛と並んで父の蔵書を漁るようになり、遂には”悪い遊び”を覚えながら俊英としての評判も高めてここまで来た。あぁそうだ、だからこそなのだ。

「つまり君は私の家臣団であると同時に新城家の身内じゃないか」

 保胤は久方ぶりに心から笑いだしそうになるのを堪えながら将家の若頭領めいた言い方をしてみせた。
「なにしろ君は新城家当主と共に我が家秘蔵の書物を漁っていたのだから、そのちょっとした特権を共有した恩義に報いる時が来たのさ」

 腹の底を見せぬと噂の英雄が唖然としている姿がひどくおかしかった。

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