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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十三話将家という生き物
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しっかりしていただければ」
 前線仕事に口を出すな、と丁重に礼節に包んで差し出された益満は口元を歪めてそれを許容した。
 戦準備ならばともかく実際の計画にまであれこれと最上級司令部が口を出せるとは益満も信じ切れていなかった。
 導術活用の負の側面だったのかもしれないな、と益満は内心ため息をつく。
「参謀長からは何か」

「要点はまとまったと愚考いたします。ひとまずはこの方向でまとめましょう。後は旅団単位で訓練を行って適時修正していきたいと思います」

「分かった、後で計画をまとめて提出してくれ――馬堂聯隊長は司令官室に」





「――やりすぎでしたか?若様」

「あれくらいは言ってくれないと外から幕僚会議に呼びつけた意味がない」「なるほど?」

 保胤は苦笑して細巻を豊久に差し出した。
「君に気を使っているわけじゃない、あの程度は色を付けてくれないと困る。司令部の能力は問題ないが私に出す選択肢を縛っている節があるからな」「それが参謀の役目です」

「参謀ではなく家臣――いや、執事めいた気遣いをされているような気がしてね、君はどうだ」
 そう言いながらも豊久にとっても、保胤の懸念は理解できた。家臣としての伝統的な上下関係とと参謀としての上下関係は本来は質が違う。
 殿に諫言する家老――つまり”責任を取る参謀”になってしまうのは素人にとっては良い事のように映るかもしれないが、それはそれで求められている仕事とは違うのだ。

「私の聯隊幕僚は外様が多いですから、大辺は子飼いですがこの手の気遣いは苦手ですからね」

「敢えてそう見せているのだろう。それも必要な事なのだろうな」
 とはいえ参謀の役目はただ”責任を負わず求められた立案を自由に行う”だけではない、司令官の判断をサポートする為には“空気の入れ替え“も重要な仕事の一つだ。それを理解できない人間が参謀として配置されることは立案能力以上に他の参謀、幕僚の萎縮により誰かが意見を表に出さなくなってしまう。
最悪の場合は参謀部が出す立案に対し、司令官が疑念を持ち多大な悪影響を及ぼす可能性すらある。
 
「益満様は心得ておられます。若殿さまから今の疑念を相談してみてはいかがでしょうか」
  考えておくよ、と保胤は頷いた。こうした態度を若手に見せるのはまさしく保胤の美徳であった。

「さて、本題だ」「六芒郭救援作戦でしょうか」
 相変わらず察しが良いな、と保胤は書面の束を差し出した。
「各軍の動きを現在軍監本部ですり合わせている。明日の縦川にて虎城防衛線会議が開催される。そこで正式に決定だ」
 ふぅんと鼻を鳴らした。
「まだ正式には通ってなかったのですか‥‥九月中には通るかと思っていたのですが」「通らない事はまずないから安心してくれ。豊守も
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