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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十三話将家という生き物
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「将家として、ね‥‥」
 “もう将家だけが統治者だというじゃない”といおうと思って飲み込んだ。少なくとも前線で血を流す者たちにとってはそれを信じさせるのも必要な事だろう。
 軍人貴族たる誇りこそが将家の拠り所と信じているのであればそれに越したことはない。将家という生き方をそう定めたものが陣頭に立つ事にも良き意味があるのだろうから。


同日 午後第二刻 棚母沢近郊 駒州軍司令部大天幕小会議室
独立混成第十四連隊 聯隊長 馬堂豊久



「あの‥‥なんで私がここに?」
 戦闘詳報についてあれこれと聞かれたと思ったら今度は資料をもって軍司令部に出頭せよ、と命令を受けた。そうしたらいつの間にか軍参謀と会議室に詰め込まれている。
 わけがわからないが不吉の予兆をこれまでの経験則が読み取っている。

「北領で陣地戦を指揮しているからな、一番重要な初期対応を行う前衛陣地防衛隊の運用について意見を聞きたい」
 議長席に座っている保胤はニコニコと笑って返答した。

「砲兵将校で龍火学校も優等で卒業しており、砲兵運用への理解があり、なおかつ対〈帝国〉戦争における諸兵科連合(コンバットチーム)運用の第一人者は大佐殿ですからなぁ」
 駒州軍砲兵参謀である富成中佐がにやにやと笑いながら言った。龍火学校でとことん“叩き込んだ”のはこの人だ。階級を抜かれたことすら面白がっている風情がある。

「‥‥旅団が配置されるのでは?」

「後備部隊は幾つか龍州軍に移管される。主要街道以外の虎城の防衛を担当する為に再建を急がねばならん。文句を言いたくても言えないのが正直なところだ」
 戦務参謀の鍬井大佐が肩をすくめた。彼も豊久より十五は年上の駒城家家臣団の一員だが気にした様子はない。というよりも内心を見せぬだけの分別があるのだろう。
「その為、銃兵部隊が想定より少なくなる、全体の運用を見直す必要がある」

「なるほど、それで聯隊を使った私の尋問が必要になったわけですね」
 そう言ってにやりと笑って見せる。この程度の遊びを入れて見せるのも自己演出の一つだろう、という打算も込みだ。

「主力戦力である旅団は本線陣地に集結、各独立部隊で前衛陣地を、という構想だ。前衛陣地は右翼と左翼の二つ防御陣地で構成する。両翼と独立銃兵大隊二個を配置し、擲射砲一個大隊を支援にあてる予定だ。つまり六個大隊が防御につくことになる」

「独立部隊のままですか?」「後退時期を決めるのは本線陣地の状況を把握した軍司令部だ。
故に軍司令部が統括指揮を執る、導術であれば全体の統括は問題ない‥‥という案だったが」

「私の部隊を参考にするべき、という案が出てきたわけですね、成程」

「後退時期によっては撤退戦になりうる。龍州での戦ぶりを見ると貴様の聯隊は
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