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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十三話将家という生き物
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んだ。
「総力を挙げると申しますが、動かせる兵力自体は絞らなければなりませぬ、葦川を保持し続ける事には戦略的に大きな優位があります
夏川様の事は存じ上げておりますが‥‥その‥‥」

「まぁそりゃなぁさすがに“軍総力をもって打って出ろ“などとは言わないよ。
俺が前線仕事に口を出したら恥をかくだけだ。恥をかくのはなれているが他人を巻き込んで恨みを買う趣味はないよ。
そこは現場の判断に任せる。それに葦川を取られるのは痛い。経済的にも痛手になるし、海良だけではなく兵部大臣まで敵に回すことになる、あの二人を敵に回すと面倒だよ」

 豊浦は胃を撫でながらうなずいた
「はい、この葦川を我々と水軍の尽力で確保できているからこそ東州灘の安全を確保できているのです。安東家にとっては生命線のひとつですよ――それに弓野と上泊の双方に兵を張り付ける必要があります、冬営の間ここを保持し、西州軍の兵力を増強すればそれだけで〈帝国〉軍にとってはちょっとした負担になります」


「あぁそれだけで血を流さずに安東と水軍と伝手を強化できるここの保持は御国にとってもウチにとっても重要だ。
だが今回の作戦は守原と宮野木にとっては我々の救援がお題目だからな、連中に借りを作らないように働いてくれよ」
 宮野木はあくまで戦略予備だけどな、と信置は肩をすくめてみせた。
「今回の件、駒城には借りになるようですが、そちらはよろしいのですか?」
 駒州軍は作戦の主力となる、内王道から戦力の大半をもって打って出るのだからそれもとうぜんだろう。

「あの情報を流したのは官房にいる馬堂だ。我々ではない、連中は御育預を助けるために夏川を利用しているだけだ」

「なるほど、恨みますか?」
「まさか!こう見えても俺はそれなりに家族思いだよ、たとえ腹が違ってもアイツに罪はないよ。可愛い弟だ、公に認めたら世に向ける面子が立たぬといえそう思う分には俺の自由だ。
まぁそれに。こちらの面子を立てるためにあくまで噂話として流し、こちらも正面から注文したわけではない。まぁそういう事だ」
 信置の言葉に西津は唸るように窘める。「若様、あまりに明け透けな言い方はお控え為され」

「ハハハッ、まぁそういう事だ。貸にはならん、連中は御育預を助けたい。俺達は弟を助けたい。それで俺達は一方的に顔を貸したのだから逆に貸しにしてもいいくらいじゃないかなぁ」
 どこかふざけた口調だがその芯には冷酷でありふれた何かが秘められているように西津は感じ取った。
「あぁ、なるほど」「どうした」
「私は戦度胸であれば大殿にも劣る気もありませんでしたが面の皮の厚さ、という奴はどうも若様に譲らねばならぬようです」
信置は茫洋とした顔に戻っている。「褒めてるのか?」
「褒めておりますよ、将家として生きるのであれば」
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