ターン17 錬金武者対赤髪の夜叉
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なか勝てんな。この10年、私も遊んでいたつもりはなかったんだが」
「そりゃあれだ、人間の格の違いってやつだろ?」
「格?……少なくとも、器はお前の方が小さいようだな。胸ならお前の方が大きいだろうが」
「お前なあ。それともなんだ、もう1戦やる気か?」
笑いながら問い返す糸巻に、いや、とゆっくり首を横に振る鼓。先ほど脇に退けられた席に再び腰かけてシュークリームを手に取り、一口かじってからすっ、と赤髪の向こう側に見える厨房を指し示した。
「糸巻。ご指名はお前だ」
「あん?……あ」
言われるがままに振り返った彼女が目にしたもの。それは目を細めてニコニコと笑みを浮かべ、指が白くなるほどに力を込めて腕組みをする清明の姿であった。当然その視線だけで人を刺し殺せそうなほど鋭い目を見れば、彼の怒りの度合いはとてもよく伝わってくるのだが。
「糸巻さん?」
「お、おう」
笑顔とは元来攻撃的なものであり、最も恐ろしい表情である……そんなどこかで見た文句が、彼女の脳裏に蘇った。目の前に立つ、遊野清明。少年の見掛けにはあまりにも似つかわしくない、幾度となく修羅場をくぐってきた人間特有の研ぎ澄まされた怒りと殺気は、その言葉をまさに体現していた。こいつは何者なんだろう、幾度となく胸をよぎった問いが改めて湧き上がるが、今はそんなことを気にしている余裕は彼女にはなかった。
「営業妨害って言葉について、ちょっとばかし話がしたいんだけど。少しいいかな?」
「あーっと……」
助け舟を求めて、わずかに後ろに視線を送る。当然付き合いの長い鼓ならば、彼女の言いたいことは察したはずだ。
しかし、聞こえてきた会話は無常だった。
「どれ、八卦ちゃん。これも食べるといい、美味いぞ」
「これですか?あっ、本当ですね!」
お前らなあ、と恨み言のひとつでもぶつけようとしたところで、先手を打つように清明が動く。ゆっくりとした動きの手招き。しかしそれは、絶対に逃がさんという気迫に満ちたものでもあった。未練がましく逃げ場所を求めて左右に目を走らせ……最終的に諦め、彼の後について店の奥へと向かう。その足取りは、さながら執行前の死刑囚のように重いものだった。
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