第三章
[8]前話
そうして猟師のやることを見守っていると。
猟師はその懐からあるものを出した、それは何かというと。
煙草、吸い煙草のケースで合わせて四ダース程度もあった。そこにライターも備えられていた。その二つを出してだった。
猟師は巨人にその二つを両手に持って差し出しつつ言った。
「これをやるよ」
「おお、くれるのか」
「ああ、これをやるからな」
「わかった、煙草があるならいい」
巨人はその恐ろしい顔を破顔大笑させて猟師に答えた。
「それならな」
「わし等は山を下りるが」
「ああ、勝手にしろ」
「それじゃあな」
こう言ってだった、巨人は猟師から煙草とライターを受け取ると。
上機嫌で一行の前から姿を消した、こうして一行は難を逃れたが。
これは一体と言おうとした桜島にだ、羽良田は自分から言った。
「キムンアイヌは無類の煙草好きなんだよ」
「それでその煙草を貰ったら」
「どんな時でも急に機嫌がよくなってね」
それでというのだ。
「帰るだよ」
「人を喰わないで」
「そうなんだよ、だから」
「猟師さんにですか」
「煙草を持って来てもらったんだよ」
「わしは吸うからな」
その猟師も言ってきた。
「だからな」
「持っておられて」
「ああ、持って来てな」
「難儀を避けられたんですね」
「わしはいつもこの辺りの山に入る時は」
「煙草を持って行かれてるんですね」
「いつもな、若い奴にも言ってるよ」
日高の山に入る時にはというのだ。
「そうさせているんだよ」
「そうでしたか」
「ああ、煙草で命が助かるんなら」
「それならいいですね」
「そうだよ、普通は煙草を吸ったら身体に悪いが」
それで寿命を縮めるがとだ、猟師は桜島にこうも話した。
「こうしてな」
「助かる時もですね」
「あるってことだな」
「それも民俗学的に面白いですね」
「そうだよな、じゃあ今日は下山して宿舎で調査のことを整理して」
羽良田は桜島に学者として話した。
「そのうえで」
「飲んで食べて」
「お風呂に入って」
「そうして楽しむんですね」
「そうしたことも忘れたらいけないからね」
羽良田は今度は酒好き風呂好きの顔になっていた、その顔で桜島そして猟師と共に緑の深い山を下りてだった。
巨人のことは頭の片隅に置いてそのうえでまずは現地調査の整理を行った。その後で飲んで食べて風呂に入って楽しい時を過ごした。
キムンアイヌ 完
2019・7・3
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