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妖婦
第三章

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「公に対して何かをすることは」
「人の道に背く」
「主に対して」
「それはですか」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「私としましては」
「ですがあまりにも酷いです」
「公達はもう国を忘れています」
「民のことを」
「陳の国も民も苦しんでいます」
「このままでは国が滅びますぞ」
「そうなってもおかしくないですぞ」
 こう言う者達が出て来ていた、最早陳はどうなってもおかしくない状況であった。だが公達の行いは変わらず。
 夏家の屋敷に我がもの顔で入り夏姫と代わる代わる床を共にしていた、そして宴も楽しんでいたが。
 その宴の中でだ、公は共に飲んでいた儀行父に言った。
「夏徴舒だが」
「あの者ですか」
「顔がそなたに似ておるな」
 酔って下卑た顔での言葉だった、夏姫だけでなく酒にも酔い実に醜い顔になっている。
「実に」
「いえいえ、それはです」
 儀行父も公と同じ顔で返した。
「違いまするぞ」
「そうなのか」
「明公に似ておりまするぞ」
「わしにか」
「はい」
 そうだというのだ。
「どうも」
「ははは、それを言うと孔寧もだな」
「あの御仁もですな」
「顔が似ておるな」
「では一体誰の子か」
「わからぬな」
「全くですな」 
 夏家の屋敷の中でこうした話をしていた、するとだった。
 その話を丁度屋敷に帰って聞いた夏徴舒は激怒した、そしてだった。
 家の者達にすぐにこう言った。
「私はもう我慢出来ん」
「はい、お気持ちはわかります」
「我等も以前からでした」
「幾らこの国の主、身分のある方々でもです」
「我がもの顔に勝手に屋敷に入り」
 家の者達も怒っていた、それが顔に出ている。
「大奥様を抱かれるなぞ」
「それもお三方とも」
「今も我等に宴の用意をさせてです」
「大奥様のお話ばかりです」
「しかも旦那様まで侮辱するとは」
「もう我慢出来ません」
「これまで耐えてきたが」
 夏徴舒はまた言った。
「最早だ」
「よくここまで耐えられました」
「旦那様、もう耐えられる必要はありませぬ」
「公を討ちましょう」
「あの様な下劣な輩主に値しませぬ」
「他の二人もです」
「そうだ、紂王の様だ」
 かつて殷の王であり無道の限りを尽くしたことで知られている。酒池肉林という言葉も生んだ程である。
「これではな」
「全く以てその通りです」
「国政を何もせずですし」
「大奥様に溺れてばかりで」
「国は大いに乱れています」
「民は苦しんでいます」
「もうこれ以上はなりません」
 国にとっても民にとってもというのだ。
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