第一章
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妖婦
その女を見た時に陳のある者が瞬時に顔を真っ青にさせてそのうえで家の者達に話した。
「すぐにこの国を去るぞ」
「何故ですか?」
「何故そうされるのですか?」
「恐ろしい女が来た」
だからだというのだ。
「この国はこれから恐ろしいことになるからな」
「女が来たからですか」
「それで、ですか」
「この陳が乱れる」
「そうなるのですか」
「難を避ける為にだ」
まさにその為にというのだ。
「今はこの国を去るぞ」
「訳がわかりませぬが」
「一体どういったことか」
「女で国が乱れるなぞ」
「そんなことがあるなぞ」
「やがてわかる」
その者は今はこう言うだけだった。
「それもすぐにな」
「左様ですか」
「そうなのですか」
「だからですか」
「今はですか」
「この国を逃れ」
「難を逃れますか」
「そうする」
こう言ってだった。
この者は一族を連れ家財も持ってそのうえでつてのある陳から遠く離れた国に移った。
そしてその女は陳の有力な大夫である夏氏に嫁いで夏姫と呼ばれる様になったがその彼女を見てだった。
陳の主である霊公はわざわざ彼女を呼ぶとそのこの世のものとは思えぬ妖艶な、見ているだけでどうにかしたくなる顔と肢体、服を着ていて慎んだ格好をしていてもそうである彼女に対して言うのだった。
「そなたこれからは余が呼べばだ」
「その時はですか」
「常にだ」
「この様にですね」
「参上してだ」
そのうえでというのだ。
「二人で宴を楽しむのだ、よいな」
「公がそうお望みなら」
夏姫は特に断ることなく公に応えた。
「その様に致します」
「それではな」
こうしてだった、夏姫は公と二人だけで頻繁に時を過ごす様になった、それは彼だけではなく他にもだった。
陳において公の側近だった孔寧と儀行父の二人もだ、しきりに夏姫に言い寄った。それも好色そのものの態度で。
「どうですかな」
「今度わしのお屋敷に」
「ご主人がおられぬ時いらしてもいいですか」
「どうでしょうか」
「そう言われるなら」
夏姫は二人も拒むことはなかった、こうしてだった。
夏姫は夫がいる身で三人の陳の柱とも言うべき者達と関係を持った、しかもそれは一度や二度ではなく。
常にであり三人は互いに下卑た笑みで話をしていた。
「夏姫はよいのう」
「全くですな」
「夏殿には勿体ないです」
「あ奴だけの妻であるよりな」
「我等も愉しまねば」
「共に時を過ごして」
こう話してだ、ある日は。
公は朝廷の場でだ、廷臣達に夏姫の肌着を見せて彼等に話した。
「この服をどう思う」
「あ、あの公それは」
「女が肌の上から着る服ですが」
心ある廷臣達は公に驚いて言った
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