第四章
[8]前話
「同じだ、だから朕は朕の出来ることをしてだ」
「そして、ですか」
「そのうえで、ですか」
「これからも」
「今から狩猟に行く」
趣味であるそれを楽しもうというのだ。
「そなた達と共にな」
「そして夜は観劇ですね」
「大公様と共に」
「そうする、人は自分のことをわかってだ」
そうしてとだ、皇帝は気さくでかつ深みを感じさせる笑顔で話した。
「そして自分の出来ることを充分にする」
「それでいいのですか」
「それで」
「そうだ、そして親しい友人がいればだ」
それでというのだ。
「楽しめるものだ、ではこれから狩猟に出てだ」
「夜は観劇ですね」
「そうされますね」
「妻と共にな」
こう言ってだ、彼は昼は周りにいる友人達と共に狩猟を楽しみ夜は妻と共に観劇を楽しんだ。そうしてだった。
若い頃よりはかなり肉付きがよくなりまがらも青く大きな瞳とブロンドの髪が非常に見栄えのする妻にこう言った。
「マリア=アントニアに会ってもいいかい?」
「はい」
妻は夫の言葉ににこやかに応えた。
「どうぞ」
「それではね」
「では私も」
オーストリア大公でありハプスブルク家の主であるマリア=テレジアも夫に続いた。
「ああの娘の顔を見て」
「そうしてだね」
「寝ましょう」
「それでは」
「はい、共に」
こう話して夫婦で共にまだ幼い娘の顔を見て夜は共に休んだのだった。
神聖ローマ帝国皇帝フランツ一世はよく妻であるオーストリア大公マリア=テレジアと共に語られる。オーストリアそしてハプスブルク家中興の祖である妻はその偉大さを生前から讃えられてきた。その妻に対して彼は生前宮中や市井では余所者と言われ悪く言う者もいた、だが彼を知る者は妻も含めて悪く言う者はおらずよく財政家、内政の得手、芸術や文化の理解者として知られていた。彼が世を去った時はもう誰も彼を悪く言う者はおらずその死を悲しんだ。
そして今はマリア=テレジアの夫に相応しい者だったとして名を残している。自分のことをよく理解し自分が出来ることを全うしそのうえで人生を楽しみかつよき夫優しい父親であった賢明な人物として知られている。自分は余所者だと言っていた彼であったがこれがその彼への後世の評価であることは事実である。
余所者 完
2019・2・13
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