第六十一話 一騎打ちその十一
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「そこで歯噛みしただけではどうにもならぬ」
「では今は」
「うむ、この二百四十万石の領地とな」
嫡男の義信にも答えた、川中島での戦で奮戦したがそれ故に受けた傷も癒えて今は普段の気を取り戻している。
「六万の兵をじゃ」
「養い」
「時に備える」
「そうしますか」
「是非な、そしてな」
それでというのだ。
「今は戦はせぬ」
「長尾家とも」
「特にあの家とはことを構えるべきでない」
信玄は義信強い声で述べた。
「北条家ともな」
「では」
「暫し時を待とうぞ」
こう言ってだった、信玄は上洛を果たし天下一の勢力となった織田家とことを構えずそうしてだった。
今は政に専念することにし兵は動かさなかった、だが上杉家は違っていた。
本願寺の一向一揆と戦い北条家とも睨み合っていた、しかしその中で上杉家も大きくなっていた。
「当家も今では二百万石となりました」
「そして兵も五万ですね」
「はい、これは大きなことです」
宇佐美は謙信に春日山城で話した。
「まさに」
「そうですね、ですが」
「よもやです」
「織田殿が桶狭間で鮮やかに勝ち」
「そしてですな」
「伊勢と志摩、美濃も掌握し」
瞬く間にそうしたことをだ、謙信も話した。
「そこから公方様を擁して上洛し」
「そこから三好家を降し」
「土佐の長曾我部家も降しました」
「そうして天下の三分の一近くの国を有する家になりました」
「そこまでなるとは」
まさにというのだった。
「わたくしも想像していませんでした」
「尾張の蛟龍が大龍になりましたな」
「はい、ですがあの御仁は」
謙信は難しい顔で述べた。
「どうも公方様、ひいては幕府をです」
「軽んじておられる」
「そうも感じます」
「そういえば」
客将である村上が言ってきた。
「織田殿は上洛されましたが」
「それでもですね」
「都の復興にかかられましても」
それでもというのだ。
「都を拠点とされず」
「稲葉山を岐阜をあらためられて」
「そこに戻られ」
「全体の政を行っておられますな」
「これはどうも」
村上はさらに話した。
「幕府に対して」
「軽んじている様に思えるのです」
「そうなのですか」
「織田殿とは盟約を結びました」
このことは信玄と同じだ、信長は武田家だけでなく上杉家も織田家にとって大きな脅威と見て盟約を結んで難を避けようとしているのだ。
「それで攻める道理はなくなっていますが」
「幕府をないがしろにされるなら」
「絶対にです」
それこそというのだ。
「わたくしは織田殿を正します」
必ずというのだ。
「そうします」
「左様ですね」
「はい、ですから」
それでというのだ。
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