第十七話 幼児期P
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鳴き叫ぶ彼女の様子に、病室の外でもなんと声をかけていいのかわからなかった。ただ、彼女の気の済むままにそっとしておくことしか出来なかった。
「―――ったしの!」
悲痛な心の丈が、叫び声となって病院にこだました。
「私のヴィンテェェーージのワインたちィィイイィィーーーーー!!!」
「同僚さーん。病院中に響き渡ってるよぉー」
「同僚さん。元気そうでよかったね、お兄ちゃん」
『まぁ、ある意味元気なのでしょうね』
「にゃー」
そのなんと声をかけていいのか迷っていた面会者達は、とりあえず入室することにしたらしい。3日前からこんな状態の彼女に、病院側もそっとしておくことしか出来なかったのでもう放置している。開発チームの主任と胃の辺りを抑えた男性職員が、病院側に頻りに謝っていた背景があったりした。
「ほらほら、同僚さん。年齢的にお酒を持ってくることは出来なかったけど、柿○ー持ってきたから。これで抑えて抑えて」
「うわぁああぁぁん!! アルくん、だって! だってすごく楽しみにしてたんだよ!? ものすっごく高かったんだよ!! なのに、なのに…!」
「あー、どうどう。ご心中お察しします。大切にしてましたものね、名前まで付けて」
「そぉだよー、ひっく。エアトレックゥー。ブルーバードォー。ラファーガァー!」
この世界のネーミングセンスって…、とぼそっとアルヴィンは呟く。嫌というわけではないが、何と表現したらいいか微妙そうな表情だ。ちなみにアルヴィンの密かな夢は、もし地球に行く機会があったら、とあるフェラーリと記念写真を取ってみたいだったりする。
アルヴィンはお菓子の袋を開けて、女性の口元へと運ぶ。少し落ち着いたのか、えぐえぐ泣きながらポリポリ食べる女性。時々物欲しそうな妹の姿に、ピーナッツを渡してあげるとおいしそうにこちらもポリポリ。
餌付けってこういうことかと、家猫でできなかった気分を味わえてお兄ちゃんは満足したらしい。
「これおいしいね。お酒に合いそう…」
「でしょ。これクラナガンのとあるお店に売っていたんだ。今度紹介してあげるよ」
「あ、お願い」
事故から3日後、彼らは普通に和んでいた。
******
結果的に言えば、俺の手はアリシアに届く事が出来た。安全な場所へと願い転移した先は、薄暗い森の中。未だに落ち着かない心臓を沈めるように、俺は息を吐いた。
混乱していた頭も少しずつ冷静さを取り戻していく。今の状況を1つずつ確認していき、俺達は助かったのだとようやく実感が伴って来る。あの光から、俺達は生き延びられたのだと。ちゃんと俺の手は、妹の手を掴むことができたんだって。
『もしも届いたなら……ちゃんと両手で抱きしめて』
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