第六十一話 一騎打ちその六
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「攻めて来る」
「ですか」
「それではですね」
「我等はですか」
「この場でお館様をお守りします」
「頼むぞ。しかし長尾殿が来れば」
その時のことをだ、信玄は話した。
「わしが直々にじゃ」
「相手をされるのですか」
「そうされますか」
「総大将に対するのはな」
それはというと。
「総大将しかおらぬ」
「だからこそ」
「お館様が相手をされるのですか」
「長尾殿が来られたら」
「その時はな」
こう言ってだ、そうしてだった。
信玄は援軍が来てもそれで安心することなく手堅い采配を続けた、そうしつつ彼を待っていた。
謙信はここでだ、周りの兵達に言った。
「供はいいです」
「いい?」
「いいとは」
「はい、わたくしだけで行きます」
こう言うのだった。
「そうしてきます」
「何処に行かれますか」
「お一人でとは」
「それは一体」
「武田殿のところへ」
馬上で言うのだった。
「そうしてきます」
「何と、それは」
「どういうことでしょうか」
「それは一体」
「どうされるおつもりですか」
「一騎打ちです」
それを行うとだ、謙信は兵達に答えた。
「そうしてきます」
「なっ、殿それは」
「幾ら何でもです」
「無謀です」
「武田殿との一騎打ちなぞ」
「安心するのです、わたくしには毘沙門天の加護があります」
だからだというのだ。
「ですから」
「安心していいのですか」
「そしてですか」
「必ず帰られるのですね」
「ここに」
「わたくしは嘘は言いません」
これは決してだった、謙信は実際に嘘を言ったことはない。誰であってもそれはしない。
「それはそなた達も知っていますね」
「はい、そのことは」
「殿が嘘を言われるなぞ」
「その様なことはありませぬ」
「決して」
「そうですね、では」
兵達の言葉を受けてだった、謙信は。
自ら馬を駆って本陣を後にした、そうして音の如き速さでだった。
信玄の本陣を目指した、だがそれに気付いた者はいなかった。
だが信玄の本陣の兵達はその一騎を見て声をあげた。
「あの黒い具足と馬、馬具の者は」
「白い頭巾、まさか」
「長尾殿か」
「長尾殿が来られたのか」
「武田殿は何処!」
その謙信が言ってきた。
「上杉虎千代参上致しました!」
「長尾殿来たか!」
信玄は座したまま応えた。
「わしはここじゃ、来られよ!」
「いざ!」
謙信は馬を止めない、そしてだった。
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