第六十一話 一騎打ちその五
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「そうであるな」
「言われてみますと」
「その通りですな」
「実際にです」
「山は風にも林にも火にも負けませぬ」
「常にその場にあります」
「ではお館様はですか」
「今は山になられますか」
「長尾殿は他の三つになる」
即ち風、林、そして火にというのだ。
「ならわしはじゃ」
「その三つに対して」
「山じゃ」
これでというのだ。
「負けぬ」
「そうですか」
「ではです」
「我等もです」
「お館様と共にあり」
「負けませぬぬ」
「何があろうとも」
「頼むぞ、今はじゃ」
まさにというのだ。
「二郎も勘助も生き残った」
「だからこそですな」
「それだけにですな」
「負ける訳にはいかぬ」
「そうした戦になりましたな」
「どの者も当家に必要じゃ」
信繁も山本もというのだ。
「皆生きてこそじゃ」
「それで、ですな」
「これからも戦う」
「だからこそですな」
「今は負ける訳にはいかぬ」
何としてもというのだ。
「だからよいな」
「わかり申した」
「ではです」
「我等も山となります」
「お館様と共に」
「頼むぞ、一騎でもな」
「一騎?」
「一騎でもといいますと」
「あの御仁は来る」
信玄はこうも言うのだった。
「だからこそな」
「いや、一騎とはです」
「誰も来ないのでは」
「それはです」
「幾ら何でも」
兵達は信玄に幾ら何でもと述べた。
「誰であろうと」
「この本陣までは」
「流石に」
「来ないのでは」
「幾ら何でも」
「一騎で敵の本陣に来るなぞ」
「ましてや総大将が」
信玄の周りの者達は常道からこう考えた、だが。
信玄だけは違っていた、こう言うのだった。
「お主達はそう言うがな」
「それでもですな」
「長尾殿は来られますか」
「お一人でも」
「そうされますか」
「今は皆戦っておる」
信玄は自分のところにいる八千の兵も見た、確かに信繁や山本は助かったがそれでも皆死闘を続けている。
「この本陣も然りじゃな」
「はい、敵が来ております」
「そして我等も戦っています」
「そうなっています」
「そうじゃな、この状況ならば」
まさにというのだ。
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