第三章
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だがある日だ、稲穂は雅美にその話を聞いてきょとんとした顔になってそのうえで彼女に聞き返した。
「今何と」
「だからね、昔はね」
「赤いお米や黒いお米がですか」
「あったのよ」
そちらの米もとだ、雅美は稲穂に話した。
「言うけれど赤いお米っていってもね」
「お赤飯ではありませんわね」
「お赤飯は餅米よね」
「はい、それで作りますわ」
実際にとだ、稲穂は答えた。
「我が家では餅米も作っていまして」
「お赤飯も作ってるわよね」
「はい、お餅も」
餅米はそもそもこれの為に作っているから当然としてあった。
「ありますわ」
「そうよね」
「わたくしお餅も大好きですし」
正月でなくても一年中食べている程だ。
「存じていますわ」
「そうよね」
「はい、それに黒いお米は」
稲穂の方からこの米の話をした。
「玄米は黒いお米という意味ですが」
「玄が黒だからね」
「それでもありませんわね」
「ええ、昔奈良時代とかにね」
「そうした色のお米がありましたの」
「そうらしいわ」
「お米は白い」
稲穂はこの常識から話した。
「絶対にそうだと思っていましたけれど」
「私もよ、けれどね」
「そうとも限らなかったのですか」
「そう、それでね」
「それで、ですか」
「昔の人達は食べていたそうよ」
「そうですのね、わたくしが聞いたお話では」
伊達に農家の娘ではない、稲穂は米には詳しい。その知識は最早農学者も認める程である。そこまでのものなのだ。
「昔は武士の方は強飯でしたわ」
「固いご飯よね」
「はい、そうした風に炊いたご飯で」
それでというのだ。
「お椀にうんと盛って食べていましたわ」
「鎌倉時代の武士よね」
「それが時代と共に変わって」
「どの人も白米を食べる様になったの」
「それで江戸や大坂では白米で脚気も」
この病気もというのだ。
「ありましたの」
「脚気は白米ばかり食べたらなるのよね」
「だから注意しないと駄目ですの」
稲穂は雅美にこのことも話した。
「そうですの」
「二階堂さんそのお話もよくお話してくれるわね」
「大事なことなので」
脚気のことはというのだ。
「気をつけないといけませんわ」
「それで言うのよね」
「そうですわ、ですが」
ここでまた言う稲穂だった。
「赤いお米や黒いお米が」
「奈良時代はあったのよ」
「そうですのね、そう聞きますと」
米のことだ、それだけにだった。
「興味が湧いてきましたわ」
「どんな味か?」
「外見も」
そちらもというのだ。
「そうなりましたわ」
「そうなのね、けれど」
「奈良時代ですわね」
「昔のことだからね」
千三百年程前のことだからとだ、雅美は稲穂に話した。もうないだろうと
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