第三章
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「いいな」
「おいらは勉強なんだ」
「そうだ、しっかりと勉強してな」
そうしてと言うのだった。
「立派な大人になるんだ」
「立派な兵隊さんになるんだ」
「そうだ、だからいいな」
「家に帰ったらだね」
「祖父ちゃんは仕事だ」
畑仕事、それに戻るというのだ。
「そして好機はな」
「勉強だね」
「頑張るんだぞ」
「うん、おいら頑張るよ」
好機は祖父に約束した、そして実際にだった。
彼は家に帰ると学校の教科書を熱心に読んだ、彼の町とはいっても村に近いそこからも若者達は戦場に向かっていった。
好機はいつも祖父と一緒に彼等を駅で見送った、そして。
家のラジオである歌を聴いて祖父に尋ねた。
「祖父ちゃんこれ何て曲?」
「出征兵士を送る歌だな」
「出征兵士って?」
「いつもお前が祖父ちゃんと一緒に駅で送っている人達だよ」
「兵隊さん達のことなんだ」
「あの人達の歌なんだよ」
その曲はというのだ。
「いい歌だろ」
「うん、凄くね」
好機は実際にそう感じた、それで祖父に答えた。
「いい曲だね」
「そうだろ、その曲がな」
「兵隊さん達の曲なんだ」
「戦場に行くのを送る歌なんだ」
「戦争にだね」
「立派な人達の歌なんだ」
だからだというのだ。
「立派な歌で当然だろ」
「そうだよね」
「だからな」
それでと言うのだった。
「お前も歌詞を覚えてな」
「そうしてだね」
「歌うんだ、祖父ちゃんも歌うぞ」
「祖父ちゃんもなんだ」
「今日風呂沸かすからな」
祖父は今度はそちらの話もした。
「だからな」
「それでなんだ」
「祖父ちゃんと一緒に入るか、そして風呂の中でな」
「この歌をだね」
「一緒に歌うか」
孫に笑顔でこう切り出した。
「そうするか」
「うん、じゃあね」
「よし、風呂場で一緒に歌うぞ」
祖父は孫に笑顔で言った、そして実際にだった。
この夜好機は実際に祖父と一緒にその歌を風呂場の中で歌った。この時からこの歌がお気に入りになった。
それは戦争が終わってもだった、祖父は日本は負けたがそれでも孫に話した。
「いいか、負けたけれどな」
「それでもなんだ」
「日本はあるんだ」
だからだというのだ。
「それでだ」
「まだだね」
「そうだ、気をしっかり持ってな」
そうしてというのだ。
「頑張っていくんだ」
「そうすればいいんだ」
「戦争はどうしてもあるんだ、そしてな」
そのうえでというのだ。
「日本は恥ずかしいことはしていないからな」
「だからなんだ」
「胸を張るんだ、偉い人が何を言ってもな」
「それでもだね」
「祖父ちゃんがお前に嘘を言ったことがあるか」
祖父は孫の目を見て問うた。
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