第一章
[2]次話
出征兵士を送る歌
いよいよだった、若者達が出発する。それを見て富山好機は祖父の好太郎に尋ねた。
「皆今から」
「ああ、戦争に行くんだ」
祖父は自分が手を引く孫に答えた。
「これからな」
「亜米利加と戦いに行くんだよね」
「英吉利か志那かも知れないけれどな」
「どっちにしても戦いに行くんだね」
「ああ、そしてな」
そのうえでとだ、祖父はまだ陣所小学校に入ったばかりの孫に話した。
「勝って帰るからな」
「そうしてくるんだね」
「そうしてくるからな」
だからだというのだ。
「お前もちゃんと見送れよ」
「そうしないと駄目だよね」
「皆立派だから兵隊さんになってな」
そしてというのだ。
「戦いに行くんだ」
「そして勝ってくるんだね」
「だからな」
それ故にというのだ。
「ちゃんと見送らないと駄目だ」
「そうだよね」
「お前も何時かな」
祖父は孫の顔、ほんの子供のその顔を見つつさらに話した。
「兵隊さんになってな」
「そうしてだね」
「ああしてな」
「戦争に行くかも知れないんだね」
「そうだ、そうなるかも知れないからな」
だからこそというのだ。
「余計にだ」
「ちゃんと見送らないと駄目だね」
「立派なことをしに行くからな」
これから戦場に行く彼等はというのだ、見れば家族に笑顔で見送られていて万歳の声が鳴り響いている。
「馬鹿にするなんてな」
「絶対に駄目だね」
「若しそんなことをしたらな」
どうなるかもだ、祖父は孫に話した。
「地獄に落ちるぞ」
「地獄に?」
「ああ、悪いことだからな」
戦場に行く若者達を馬鹿にすることはというのだ。
「そんなことをしたらな」
「悪いことで」
「本当に地獄に落ちるぞ」
「だからだね」
「そうだ、ちゃんと見送るんだ」
「万歳してだね」
「お祖父ちゃんも万歳するからな」
孫に優しい声で話した、還暦を過ぎたばかりであるが背中は少し曲がりかけている。ずっと畑仕事をしていたせいだ。
「それに合わせてな」
「おいだもだね」
「ああ、万歳するんだぞ」
「わかったよ。それでおいらも」
「大人に、それも立派な大人になったらな」
「お兄ちゃんみたいにだね」
「戦争に行けるぞ、祖父ちゃんはな」
祖父は自分のことを思い出して話した。
「戦争には行ってないけれどな」
「そうだったんだ」
「身体がよくないってことでな」
孫に徴兵検査で甲種合格にならなかったことをこう話した、甲種合格でもないと招集もかかりにくいからだ。
「それでな」
「兵隊さんになれなかったんだ」
「だから戦争にはな」
日露戦争、この戦争にはというのだ。
[2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ