第六十話 死闘その九
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「戦う」
「死兵となられて」
「そしてじゃ」
「それがしと同じくですか」
「戦う、ではこれがじゃ」
「我等が共に冥土に旅立つので」
「今生の別れとなるな、そして」
その別れはというのだ。
「兄上に対してもな」
「ではお館様に」
「伝える」
こう言ってだった、信繁は自身が率いる軍勢に戻ると兵達にこの度の戦の厳しさを話してだ。彼等に言った。
「死にたくない者は去れ、何も言わぬ」
「何を言われますか」
「我等は武田の兵ですぞ」
「武田の兵ならばらばです」
「戦の場から逃げることはありませぬ」
「決して」
兵達は信繁に笑って言うのだった。
「水臭いことを言われないで下さい」
「二郎様の為なら火の中水の中」
「冥土にも行きましょう」
「そしてあちらでも暴れましょう」
「そうしてみせましょうぞ」
「そう言ってくれるか、ではな」
それならとだ、信繁は微笑んでだった。
彼等と共に死兵となり戦う、それは山本と彼の軍勢も同じで彼等は謙信の車懸かりに果敢に向かうのだった。
謙信は今は陣の中央にいた、そこにいて言うのだった。
「わたくしもです」
「最後にですな」
「兵を率いられて」
「そのうえで」
「自ら刀を抜き」
そうしてというのだ。
「戦います、そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「今はこの陣のままです」
車懸かりの陣の動きでというのだ。
「攻めるのです、そのうえで」
「武田の軍勢を徐々にですな」
「削り取っていきますな」
「新手を次々に繰り出して」
「そうして」
「そうしていきます」
これが謙信の考えだった。
「よいですね」
「承知しました」
「では我等もです」
「時が来れば攻めます」
「それに入ります」
「その様に、そして最後はわたくしも出ますか」
謙信は意を決した顔で述べた。
「その時、これまでしなかったことをします」
「これまで?」
「これまでとは」
「それは」
「その時にわかります、必ずそれをして」
そしてというのだ。
「戦を終わらせます」
「そうされるというのですか」
「この度は」
「この度の戦では」
「そうです」
強い声で言い切った。
「私自らの手で決着をつけようと思っています」
「殿ご自身でとは」
「それはどういうことでしょうか」
「一体」
「何をされるおつもりですか」
「その時にわかります、ここで武田殿の軍勢を降しますが」
この車懸かりの陣でというのだ。
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