第四章【DEM襲撃】
第五十二話「提案」
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「お困りの様子ではありませんの。…ねえ、士道さん。少し、お話をしませんこと?」
暗いビルの一室で。
漆黒の影から這い出てきた少女は、妖しく笑いながらそう言った。
「な…」
突然の事に士道は真っ先に警戒する。目の前の少女、最悪の精霊である時崎狂三。一度は敵対し、殺されかけた相手に警戒を抜くほど士道は平和ボケしている訳ではなかった。
「あら、違いましたか?四糸乃さんと八舞姉妹を精霊に奪われ、十香さんをDEM社にかどわかされ…、為すすべもなく途方に暮れているようにみえたのですけれど」
「なっ」
士道は息を詰まらせる。何故なら、狂三言った事は全て事実でありこの数時間の間に起こった事であるのだから。まるで、見ていたかのような詳しい内容に士道の目は自然とほそまる。
「…なんで、そんな事を知っているんだ?」
「うふふ、野暮な事を訊かないでくださいまし。わたくし、士道さんのことなら何でも知っていますのよ?」
そう言って、狂三が可愛らしいしぐさで微笑む。しかし、士道にはそれと同時に狂三の足元に蟠った影が微かに蠢き、小さな笑い声がいくつも聞こえた気がした。
「…」
士道は数か月前に見た光景を思い出し、ごくりと喉を鳴らす。狂三は比喩でも冗談でもなく実際に幾つもの目と耳を持っていた。あの会場の中に一人や二人、狂三が混じっていても不思議ではない。
そして、同時に士道は今の自分の立ち位置に目を見開く。
狂三は、知っているのだ。今この場に、士道を守るものが何もない事を。駆け付ける者がいないことを。…狂三の食事を邪魔するものがいないことを。
「く…」
身を固くし、片足を引く。だが、狂三はそんな士道のようすを見て愉快そうに唇を歪めた。
「ふふ、落ち着いてくださいまし。…少なくとも今わたくしに、士道さんをどうこうしようというつもりはございませんわ」
「何…?」
予想外の言葉に士道は眉根を寄せた。
「どういう事だ?お前は、俺を食べるのが目的なんじゃなかったのか?」
「ええ、それは否定しませんわ。…でも、先程申し上げたではありませんの。今は、士道さんとお話がしたいと」
「そんな言葉を信じろって言うのか?」
狂三の言葉を疑う士道。しかし、それも仕方のない事だった。狂三が士道にしたことを考えれば。
「わたくしが今、嘘をつく理由がございまして?」
「む…」
そう言う割れて、士道は言葉に詰まる。この状況は狂三に圧倒的に有利であり狂三の機嫌次第で煮るなり焼くなり隙に出来る状態にあった。そんな狂三が嘘をついてまで士道を騙すメリットがあるのだろうか?その答えは、ない、である。
「…一体、何を話そうってんだ
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