第五十一話「天央祭の夜」
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力感。或美島の一件で少しは軽くなったとは言え未だに無力な事に変わりはない。何故なら五河士道たった一人の力ではこの局面を逃げ惑う事しか出来ないのだから。
「俺は…っ!」
奥歯を噛みしめる。
「俺はっ!」
そして、士道が全身に蟠る無力感を声にして零した瞬間。
−くす、くす、と。
誰かが、笑った。
「…っ!?」
肩を揺らし、バッと顔を上げる。
一瞬、士道は美九に操られた人に見つかったのかと思った。こんな廃ビルに訳もなく人が立ち寄るとは思えない。土木系の人だとしても今は夜である。とっくに仕事を終え帰路についているはずである。それに何より、今天宮市の外を歩いているのは美九に操られた人しかいないだろう。
しかし、辺りに人影はなかった。
だが、その声の主の正体は直ぐに判明した。
影が。
黒い部屋の中に充満した影が躍動したかと思うと、そこから一人の少女がはい出てくる。士道にはその少女に見覚えがあった。
血の様な紅と闇の様なドレスで構成されたドレス。左右不均等に結われた黒髪。左目に浮かんだ時計の文字盤と一秒ごとに規則的に時を刻む針。
そして、その作り物としか思えないくらいに整った貌は、愉悦とも嘲笑ともとれる生々しい笑い顔に彩られていた。
「うふふ、随分と暗い顔をしていらっしゃいますのね」
「狂三…っ!?」
時崎狂三。かつて士道と対峙し士道を殺そうとした精霊。いらっしゃいますのね誘宵美亜と並ぶ最悪の精霊の一人。
士道狂三の突然の訪問に警戒を露にする。一度は敵対し、殺されかけたのだ。経過して当然であったがもし狂三がその気なら士道は呆気なく敗れ殺されるであろう。それくらい二人の間には実力の差があった。
そして、それを理解している狂三は妖しく笑い、士道は唇をかみしめる。
「お困りの様子ではありませんの。…ねえ、士道さん。少し、お話をしませんこと?」
そう言う狂三は妖美に、妖しく笑みを浮かべるのであった。
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