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戦国異伝供書
第六十話 死闘その一

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               第六十話  死闘
 謙信は二万の軍勢を全て率いてそのうえで妻女山を降りた、そうして川の前に来たが彼はこのことを確認した。
「馬の足音を立てず声もです」
「はい、立たせぬ様にですな」
「馬の口に轡を入れて」
「そうして鳴かせず」
「川を渡る時も」
「しかと操り」
 馬をそうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「川を渡り」
「そうしてですな」
「敵の本陣の前まで来て」
「そのうえで」
「朝にはそこに着きます」
 謙信にはわかっていた、自身が率いる軍勢が果たして何時何処にいるのか。それで今も言うのだ。
「ですから」
「今はですな」
「敵に気付かれぬ」
「それが大事ですな」
「夜は姿を隠してくれます」
 闇、それがというのだ。特に上杉の軍勢の黒い具足や兜、旗は闇夜によく溶け込んでいる。それで見えはしない。
 だがそれでもとだ、謙信は言うのだ。
「ですが音は違います」
「それは、ですな」
「夜は隠してはくれない」
「だからですな」
「そこは気をつけて」
「そのうえで」
「進むのです、声が聞かれると」
 出してしまったそれがというのだ。
「言うまでもないですね」
「はい、それは」
「武田には優れた忍達もいます」
「真田の者達がそうですな」
「特に真田家の源次郎殿は凄いとか」
「その下の十勇士達もまた」
「だからです」
 それ故にというのだ。
「今はです」
「音を立てぬ」
「そのことに注意し」
「そしてですね」
「前に進み」
「翌朝には」
「明け方には」
 その時にはというのだ。
「武田軍と戦ですな」
「遂に」
「その時はですな」
「そしてそのうえで」
「勝ちますな」
「そうしますな」
「そうです、この季節こうした場所は霧が起きます」
 朝にはというのだ。
「それが我等には余計に好都合です」
「左様ですね」
「その霧が我等の姿を隠してくれます」
「そしてその霧の中ですな」
「我等は」
「戦を挑むのです」
 霧で周りがよく見えない武田の軍勢に対してというのだ。
「そうします」
「左様ですな」
「ではです」
「今は進みましょう」
「戦の場に」
「そうします」
 こう言ってだった、謙信は二万の軍勢を率いて妻女山を秘かに出て武田の本陣に向かっていた。その頃。
 高坂は一万二千の別動隊を率いてそのうえで妻女山を後ろから襲おうとしていた、その時に彼はこんなことを言った。
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