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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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が通りますまい
――兵馬に関わる事ですが我々がなさねばならぬことも在ります。」
 メレンティンの尻を抓り捻った。背筋を伸ばした参謀長が慇懃な口調で口を開いた。
「座下、それでは何か我々にできる事がありましたら能う限りお力になりましょうぞ」

「さて、それでは一つ、儂も常々危惧していたことですがな。どうもナイチにはあの天龍の保護区があるらしい。
その影響もあるのでしょうがどうにも兵どころか将校の中にまで背天ノ業を公然と“実在する術”として話している者がいるとか。
由々しきことです――げに由々しきことです。畏れ多くも皇帝陛下の副帝家たる東方辺境領軍でそのような悪しき考えが蔓延するようにならば――」
 
 二百年程前に行われた純化運動で最も被害を受けたのは術士とそれ慕っていた土着の村落に住まう人々だ。だがひっそりと――人類をはるかに超えた術力で扱われる導術と空を飛べるという特性により――個別の居住区を持たない種族がさしたる争いもなく立ち去っていった事は記録には記されていない。
 天龍というのは人間からすれば独特の価値観を持っているが便利であることを望むのは人とさして変わらない。導術を扱う人々の集落に立ち寄りちょっとした知恵を授けて‥‥などというのは若い天龍が良くやっていることであった――天龍の政治的拠点である龍上国にほど近い〈皇国〉東部では村の乙女を差し出した旧慣が行儀見習いへと変遷し残っている――〈帝国〉の術士が生まれる地域ではいわゆる客人神として扱われていたのである。
 しかしながらそうした“実在する神”を許容できないのが拝石教であり、また名分として使われたのが〈帝国〉皇帝であった。
 最初は〈帝国〉政府は乗り気ではなかった――総宗庁と貴族らの腐敗をどうにかしようとした皇帝が総宗庁の権限拡大に良い顔をするはずがない。
 しかしながら総宗庁は狡猾であった。皇帝を自身の宗教世界に取り込み権威を民草に根付かせたのだ。
民草が熱心に取り組むようになってからはもはや「純化運動の否定は石神と皇帝の権威の否定である」と民草に受け止められる様になった。

「軍内部の引き締め?それならば私の判断で対応する。軍司令官は私だ。幾度も言わせないでいただきたい。
座下、本命を早く出してくださいませんか?」
 従軍教衆にもいくらかの特権はある。告解の秘密の保持などはそれにあたる。だが軍の指揮系統への介入や異端審問を行う権限などは完全に規制されている。
 これに関しては皇帝から軍部まで一体となって拒否した。

 老聖職者は髭の合間から真っ白な歯を見せてにんまりと笑った。
「ほほほッ!かないませんな殿下。本命はですな、天龍対策の政策です。こちらには我々の顧問を入れていただきたい。
大協約と拝石教の教義について研究している司祭がおりましてな。そのよ
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