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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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発され、臼砲やら平射砲やらを乗っけた怪しげな河川砲艦がでっち上げられたのだ。
つまりは攻め込む能力はない――砲兵隊の被害はまだ回復していないが制圧するには相当な覚悟が必要な状態なのである。
「トウシュウへの窓口となっているようですな、敵の北方を抑えていた第二軍が逃げ延びています」

「トウシュウへ逃げるのならば楽よ。蛮都を抑えれば艦隊を使ってどうとでもなる、その辺りは楽なくらい」

「姫、どうなさりますか?我々が出向けば六芒郭を抑えて南部と中央部を封鎖、コウリュウドウへ軍団級の兵力を投入する事も可能です。おそらくは本領軍はそれを主張するでしょう。
いっその事彼らに押し込んでしまい、コウツ(吼津)のような港町を確保、来春の突破に向けた拠点を作るのも良い選択肢かと思いますぞ?」
 ――それならば水軍の艦隊決戦も望める、敵首都から目鼻の先に海運兵站拠点を作れば敵も黙ってはいられまい。
 メレンティンは艦隊決戦どころが国営海相手に不毛な護衛戦を戦う羽目になった水軍の見せ場についても十露盤を弾いていた。

「それも悪くはない、だが今回は六芒郭を陥落させる、雨季までに必ず」

「――理由をおたずねしても?」

「簡単よ、一つ、来春攻勢に向けて街道の安全を確保するべき。
二つ、冬営期間中に兵を張り付ける場所を増やすべきではない。冬営はけして楽ではない。特にコジョウのような山岳地に警戒線を張るのであればね
三つ、アラノックの支援を私が行い短期で要塞を落とす事で上層部を黙らせることができる。
手柄はアラノックに渡す、少なくとも一度はそう見せる。そうすれば第二軍団の司令部も黙るでしょう。ねぇどうかしらメレンティン」

「‥‥‥ふむ、いえ悪くないかと。殿下が御自らそのように示す事は意味があります」
 メレンティンの応答にユーリアは黙ってうなずいた。後は彼らがうまく調整するだろうと信頼しているからだ。
 
 追撃戦闘の報告書に改めて目を通す。「補給が苦しい、現地民が小村から逃げ出している‥‥面倒ね。でも皇龍道側は大協約もないからそれなりに楽になる目算だったけど‥‥」

「どうも北方に逃げている連中が多いようです。あー、その、彼らの風習にはその、技術を持った人間や、女性がその、いわゆる天龍と伝手があるようでして‥‥」
 メレンティンは言葉を濁した。
「クラウス、私に遠慮は不要よ。ここで純化審問なんて――」
「いえ、殿下。その、エプレボリ全東方辺境領府主教座下が、昨日急にどうしてもとおっしゃっておりまして、そろそろ到着するかと」

「ノルタバーンの視察だけではなかったの?親書はもう書いて現地の軍政担当に渡したはずだけど」
 といった瞬間を見計らったように扉が開いた。
「失礼いたします!!お久しゅうございます殿下!!」
 
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