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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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陛下は東方辺境領の忠節を危ぶまれていらっしゃる――」
 ラスティニアンの言葉は敬虔な祈りのようだった。だが〈帝国〉軍の前線を見続けた将校の経験が示す物は残酷であった。
そう、敬虔な祈りを捧げる者は既に天の配剤を両手から零した後に祈るからこそ敬虔に心を込めて祈るのだ。




同日 午後第五刻 〈帝国〉軍東方辺境領鎮定軍第2軍団
軍団司令部 軍団参謀長 ゲルト・クトゥア・ラスティニアン少将


「ラスティニアン参謀長」
「司令官閣下」
 奇妙ではあるが互いに個人的関心はほぼない――ラスティニアン
「どうだ」
「ノルタバーンで蛮軍は学んでいるようですな。あそこは恐ろしく複雑に築城されています
あの累を抜くのには相当な苦労があるでしょう。
現在の砲火力では損害が厳しいかと」

「弾薬は足りているか?」
「今は足りていますが攻勢を続けるのであれば輸送力が足りません。そして攻城砲も足りません。そして我らの本命はコジョウを貫くことです、あの要塞の価値は連絡線の安全確保以外にさしたる意味はありません」

「‥‥ユーリア殿下におすがりするしかないか」
 アラノックの言葉にラスティニアンは鋭い口調で返した。
「ですが閣下の判断に過失はありませぬ」
 ラスティニアンの言葉は軍団司令部――自身も当然含まれる――の責任を回避する目的であったが客観的にも的外れではない。
第三軍は東沿道に布陣する西州軍を主力とした部隊だ――駒州軍や独立部隊も含まれており、反攻主力として扱われるだけの規模を備えた軍だ。
 彼らはアレクサンドロス作戦で第21師団を――幸運に恵まれたとはいえその幸運を最大限に活用し――事実上戦闘力喪失状態にまでに追い込んだ。
 撤退戦においても後衛部隊が文字通り猛虎奮迅の活躍をし、先行した騎兵部隊に痛打を与え、龍州軍の壊滅と引き換えとはいえ主力は落伍兵と重装備の大半を喪失しただけで済んだ。
 六芒郭1万、北方の主攻正面となる皇龍道を護る護州軍2万、中央の内王道に駒州軍2万半に加え南部東沿道に西州軍の兵力2万超が存在する事は10万に届く本領軍で編成された第二軍団であろうと大いなる脅威であった。
 さらに戦略予備として背州軍2万弱があり、龍州軍も再建が行われている。

「閣下は蛮軍の動きを見極めて妥当な判断を下しました。私は参謀としてそう愚考いたします」

「そう言ってくれると有難いな。あぁだがこうなってくるとそうした問題ではなくなりそうだ。
――この国は確かに当初の評判よりよほど強いだが我々は鎮定する、次の夏までには必ずな。
問題はその後だ」
 アラノックは政局に生きる人間ではないが〈帝国〉本領軍中将となるからには政治とは無関係ではいられない。
 この手の算段を練るのは初めてではない。

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