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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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り、なにより明確な戦果を挙げてユーリア殿下にすべてを独占させず、中央の意思を示せるだろうと考えられたからだ」

「あぁなるほど――現状は不味いか」
 皇都を前にして踏みとどまる。旨味がない割に犠牲がでる要塞攻略戦。曲がりなりにも同胞として肩を並べて戦うのであればまだしも、政争を前提とした冬を目前にこれはまずい。
 人気のない物資置き場に辿り着く。待機壕に残っている運の悪い監視役の兵達の交代までここならば誰も来ない。人払いを命じられた憲兵――もちろん本領兵の――以外は。
「冬は政治の季節だ。蛮族にとっても我々にとっても。そこで責任の押し付け合いになるのだとすれば我々は切られかねない。
アラノック閣下はともかく私は上への伝手がないから余計にな‥‥」

 ドブロフスキは細巻に火を着け、もう一本をラスティニアンに渡した。士官学校で扱かれていたころからの習慣だ。階級で一歩先を行かれてからも変わらない。
「あぶないのは貴様の他には‥‥」

「少将から准将を複数名が左遷だろうな。おそらくは“騎兵殺し”に“猛獣使い”相手に痛い目を見た連中だ」
 つまり俺もか、とドブロフスキは煙を吐きながら考えた。彼とて人間だ。帝都に戻れるのであれば戻りたい。本領の領土で楽隠居する為にも左遷などまっぴらごめんだ。
「貴様からアラノック閣下を通じて打診はできんのか」

「当たり前の事を聞くな。アラノック閣下とて御家族がいる、分家で領地はけして広くない。
ならば俺を差し出す事を好まずとも。救うようなことまではせぬよ。
――とはいえどこかでヘマをしたら銃殺もありうる。俺が失敗の責任を取ることになるだろう」
 もしこの時のラスティニアンの言葉をアラノックが聞いたら目を見張っただろう。家族がいる、という言葉を発した時は奇妙なほどに人間的な口調であった。

「助かる気は」
「あるに決まっている、だから貴様に相談しているのだ」
 
 不景気な顔付きを浮かべる友人にドブロフスキは苦笑を浮かべた。
「他に友人も伝手もないからな。貴様はもう少し愛想を覚えるべきだ」

「もう遅い、あぁいや貴様が羨ましくはあるがもう無理だと思う、きっとな」
 謝罪のような言い方をもごもごとする軍団参謀長を横目に、手布で汗を拭いながらその陰でため息をつく。
 苦労人なのは知っていた。そして相応の物を示せば忠実でも誠実ではないが、厳格で抑制的に彼なりに義理を示してくれる事も。
 とはいえ万人に好かれる人間からは程遠い、堅物でありながら俗物であり、常に余裕がない。
「なぁ、もしも殿下が本領軍を抑え込もうとしたら――どうするつもりだ」

 ラスティニアンは足を速めた。「‥‥‥本領の上層部が動くはずだ、この国の権益を上手く使えば手を引くべきでないと見せれば、あぁきっと上手くいく
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