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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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は既に立派な要塞だよ、ただ応急処置を行った土塊だと思わない方が良い」

 ドブロフスキの返答にラスティニアンは口元を引き結んだ。ラスティニアンは鷹揚ではない、だがひたすら野戦の現実と向き合い続けた軍人の言葉を無視するほど愚かでもない。
彼は下級貴族でありながら〈帝国〉本領軍の軍団参謀長の少将なのだ。
「ならば――攻め落とさないのであれば?貴様は雨季までどのような行動をとる。あぁ雑談だと思ってくれ」

ドブロフスキは顎を撫でつつ答えた。「貴様のように軍の物資貯蔵などは把握しとらんぞ。それを踏まえたうえた上で聞け。俺ならこの第9師団を増強して4万程度の兵力で包囲すればよい。第24強襲銃兵師団の旅団にあれこれ付けた部隊でコウリュウドウを圧迫するもう一個旅団は予備として抵抗線を構築する。
主力は蛮族の首府を目指して攻勢を行う、あぁ第1軍団を動かせればさらに楽になるが」

「どこまで狙う?まさか蛮都までとはいうまいな」

「この第二軍団の現有装備では無理だ、貴様らが24師団を完全に使い潰す覚悟があるのなら話は別だが、途中で雨季にはまる前提で拠点の確保が主目的だ。
それに敵の主力――サイツの第三軍への追撃は不十分なまま取り逃がした。この要塞に加えて南部、中部の街道を塞がねばならない、部隊も相当苦労するよ。
どの道、コウリュウドウを圧迫するのならば殿下と辺境領軍の人手が必要だ。現状、防衛線に布陣している蛮軍の兵力はおそらくアラノック閣下指揮下とほぼ同数だろう。
だからこそ、冬にこもる前に攻勢をかける価値はある」

 ラスティニアンは珍しく少々興奮した様子で何度もうなずいた。
「だろうな――あぁ貴様も同意見か。今のうちに聞けて良かった。師団司令部も似たようなことを言っている。これなら殿下の軍司令部もどうにか動かせそうだ」

「‥‥いよいよ殿下がいらっしゃるのか?」

「ようやくな。十月に入る頃には東方辺境領軍――第一軍団を連れてご到着だ。雨期に入るまで時間がないが――まぁ師団一つがが壊滅したのだから当たり前だろうが」
 二人の歩みは徐々にゆっくりとしたものになる。
「‥‥ここを攻め落とすかどうか、本領軍の意思を統一させるのか」
「そのつもりだ。こちらでまとめて殿下に納得していただく。今年はもう終わりが見えた。ならば来春の兵役(キャンペーン)を見据えねばならん。最後の一手を決めねばならぬよ」

「ふむ、なるほど。貴様は帝都を見据えているわけか。野心か?保身か?
いや‥‥保身だな?」
 ドブロフスキの言葉に一切恥いった様子を見せずにラスティニアンは首肯した。
「あぁその通りだ。保身、それ以外にあるか?俺は塵芥だ、政争に巻き込まれれば即座に捨てられる。
アラノック閣下が選ばれた理由は政治色が薄く、皇帝陛下と軍に忠実であ
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