第四部五将家の戦争
第七十一話 冬に備え、春を見据えよ
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うな連中を送らせていただきますぞ」
「‥‥蜥蜴の仲間ではなかったのですか?」 ユーリアは意地悪く笑ってたずねた
「教義としての観点からすれば天龍は人間と同じ祝福された存在ではありませぬ。しかし大協約の問題があります、天龍は飛龍の仲間ですが知恵もある古き種族です。
〈大協約〉では我々と天龍は対等に扱われなければなりませぬ。それを認めないわけにはなりませぬの。
ですが――断じて、断じて石神に賭けて皇帝陛下にも並ぶ存在であってはならない」
拝石教の複雑怪奇な立場を示す言葉であった。拝石教は〈大協約〉に反するつもりはない――大陸国家であっても共通する慣習法だ。これが失われた際の損失を受けるのは強力な権威を持った非戦闘員である宗教組織だ。
しかしながら皇帝と総宗主教に並ぶ権威として天龍を認めるわけにはいけない。辺境で殲滅した導術崇拝が息を吹き返しかねない――否、息を吹き返さずとも抑圧された異民族が拝石教の“過ち”として導術を使う天龍を持ち出しかねない。
天龍の扱いは極めて微妙な問題であり拝石教の権威を揺るがしかねない――。
「座下、そちらについては善処する。従軍司祭らについては――」
「国体を護持する役目も魂の悩みを導くのも司祭の役目ですぞ、殿下
無論、異端審問を再現するのであれば論外ですぞい。しかし彼らが殿下に判断を仰ぎ、軍紀を正す事は彼らにとって重要な役割の一つですじゃ。儂からは彼らが務めを果たす事を称賛こそすれ止めよと令を発するのはとてもとても‥‥」
ほほほっと笑い声をあげながら分厚い眼鏡越しに鋭い視線がユーリアに向けられる。
「‥‥‥くれぐれもお忘れなく、殿下。総宗主教猊下も“関心”を抱いておられます。
それでは儂は負傷兵達を祝福したら本土に戻りますぞ」
老人が立ち去るとユーリアは無言で肩をすくめた。
「相も変わらず食えぬ御方ですな」メレンティンは姫様に見えるようにわざとらしく尻をさすりながら言った
「あの老人も見た目ほど余裕があるわけではないわ。本領軍の司祭団への命令権は彼にはないからな。
天龍対策にわざわざ自分の手駒を潜り込ませようとするはずはないわよ。――ま、総宗庁が介入するくらいならあのお爺ちゃんを相手にする方がマシよね、そういう点では協力できると知っているからわざわざ私を脅かしながら声をかけてきたのよ。あぁ面倒!こんなことになるなら攻め込まなかった方が良かったかしら?」
気分転換に“趣味”で集めさせた情報を手に取る。そこには彼女の知る男の名前が記されていた。
「へぇ――“騎兵殺し“なんて呼ばれているのね」
第21師団が敵の攻勢を抑えるために出した捜索騎兵聯隊、本領軍が追撃に出した胸甲騎兵聯隊。いずれも決定的な場面で使った部隊だ。それだけに大局的にも痛打を受けている。
――
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