ターン16 魂鋼の風雲児
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てなお反応が薄いのには、また別の理由があった。
「僕、最近はこの近くのケーキ屋で居候させてもらってるんだけどね?そこの親父さんが、今ちょっとばかしトラブっててね。一宿一飯の恩もあるし、僕が用心棒やってないとまずいのよ」
「トラブル?用心棒?……糸巻さん」
「ああ、わかってる。鳥居、お前はそこで寝とけ。面会は終了だ」
何かを通じ合うデュエルポリス2人。その視線が交錯し、ややあって糸巻が小さく頷いた。
「まあなんだ、とりあえずその店まで連れてってくれ。用心棒が出張るほどとなると、もしかしたらそれはアタシらの領分かもしれないからな」
そう言い勢いよく立ち上がると、慌てて空箱を持った八卦も続く。「いや見舞いって言ってくださいよ何やらかしたんすか俺」という小声の抗議は、当然のごとくきっぱりと無視された。
3人が病院を後にすると、気持ちのいい秋の青空が広がっていた。閉塞的な空間から抜け出たことに気をよくした糸巻が大きく伸びをすると、自然と強調されるふたつの果実へと周囲の視線が一斉に集まる。それ自体はもう慣れたものであり、彼女自身はあまり気にしていない。むしろこれだけ一生懸命見ておいてまだ気づかれていないつもりなのかと、馬鹿馬鹿しさ混じりのおかしみすら感じるほどだ。
ただそんな彼女でも、一番熱のこもった視線が自分のすぐ隣から注がれていることにはやや閉口した。顔を動かさずにこっそり横目で窺うと、案の定小さく拳を握りガッツポーズをとる少女の姿がその目に映る。
「……八卦ちゃん」
「…………は、はははははい!ななななんでしょうかお姉様!?」
「いや、なんつーか……まあ、いいや」
あまりにわかりやすくテンパる少女を前にそれ以上追及する気も失せ、代わりにため息をついてシャツの上から羽織っていたジャケットの前を止める。肌色の減少に少女は露骨に残念そうな表情になるが、素早く湿った視線を向けた糸巻と目が合うやすぐに取り繕ったぎこちない笑顔に変わる。
「おーふたーりさーん。置いてくよー?」
「は、はい!ただいま!」
タイミングよく飛んできた清明の声に渡りに船とばかりに飛びついた少女が、ぱっと駆け出してその場を後にする。今の呼びかけは偶然か、それとも計算づくなのか?考え込む糸巻の目に1瞬、清明の頭上に浮かぶ黒と紫のシャチのような顔が見えた気がした。あれは呆れ顔をしている……そう感じたのは彼女の単なる直感だが、いずれにせよその顔は彼女がはっきりと認識するより先に秋の空へと消えていった。
「……おう、今行くよ」
あまり考えすぎても仕方がない。そんな時は考えること自体をすっぱり諦め切り替える、彼女が人生で得た経験のひとつだった。先行する2人に気持ち足を速めて追い付き、道中より詳しい話を聞こう
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