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戦国異伝供書
第五十九話 死地へその十

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「我等は飯を食ってです」
「夜にじゃな」
「はい、本陣を秘かに発ちます」
「お主には一万二千の兵を預ける」
 信玄は高坂に強い声で告げた。
「決めた通りにな」
「そうしてですね」
「妻女山の後ろからな」
「敵を攻めよと」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「手筈通りせよ、若し何かあればな」
「その時は」
「お主に任せるからな」
「自由に動いてよいのですな」
「この戦に勝つ為に」
 信玄の声は強いものだった、その声で高坂に言うのだった。
「全てじゃ」
「それがしが率いる一万二千の軍勢の采配は」
「全てお主に任せる」
 この度の戦に勝つ為にというのだ。
「よいな」
「それでは」
 高坂は信玄に頷いて応えた。
「その様に」
「お主ならば大丈夫じゃ」
「一万二千の軍勢もですか」
「無事に任せられる」
 この戦に勝つ為にというのだ。
「だからな」
「そのお言葉に是非です」
「応えてくれるか」
「武田家、お館様の御為に」
「ではな」
「それでなのですが」
 信繁は横から信玄に言ってきた。
「我等の陣は」
「前に上杉の軍勢が出ればな」
「その時は」
「わしが采配を執ってじゃ」
 そのうえでというのだ。
「戦ってな」
「そのうえで」
「長尾殿を倒す」
 そうすると言うのだった。
「必ずな」
「だからですな」
「源助に多くの兵を預けてな」
「将帥もですな」
「多く置いたが」
 二十四将の中からあえて割いてだ。
「本陣にもじゃ」
「多くの優れた者を置いていますな」
「そうじゃ、こうした時はな」
 まさにと言うのだった。
「優れた者が家に多いとな」
「助かりますな」
「そうじゃ、一方に優れた者を多く置いてな」
「もう一方にもですな」
「多く置ける」
 優れた者達をというのだ。
「だからよい」
「左様ですな」
「そしてじゃ」
 信玄は信繁にさらに話した。
「お主達にもじゃ」
「戦の時は」
「よく働いてもらうぞ」
「それでは」
「その為にもじゃ」
「今はですな」
「存分に飯を食ってな」
 その様にしてというのだ。
「力をつけよ」
「それでは」
「干し魚もあるしな」
「味噌もある」
 こちらもというのだ。
「だから存分にな」
「今は食い」
「明日に備えようぞ」
「では」
 幸村も食っている、そうしつつ信玄に言うのだった。
「それがしもです」
「食うな」
「家臣達にも命じております」
 十勇士達にもというのだ。
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