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戦国異伝供書
第五十九話 死地へその九

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「しかしです」
「しかしとは」
「はい、世の者はわたくしを越後の龍と呼び」
 後ろに控える兼続に言うのだった。
「そして武田殿はですね」
「甲斐の虎と呼んでいます」
「龍虎ですか、ではこの度の戦は」
「まさにですね」
「龍虎相打つ」
「そうした戦ですね」
「言われてみますと」
 そうだとだ、兼続も応えた。
「左様ですね」
「そして龍が勝てばです」
「殿は虎を得る」
「そうなります」
「それがこれからですか」
「はっきりします」
 これからはじまる戦でというのだ。
「まさに」
「そう思いますと」
「余計にこの度の戦は」
「決着をつけるべきとですね」
「思います」
 まさにと言うのだった。
「それではです、今は少し」
「眠られますか」
「そうしましょう」
 実は謙信はあまり寝ない、これは禅僧がそうしている様に食欲や性欲と共に睡眠欲も抑えて身を慎んでいるのだ。
 だがそれでもだ、謙信は今はこう言うのだ。
「寝るとです」
「次の日の戦にですね」
「よき糧となりますので」
 だからだというのだ。
「この度はです」
「是非にですね」
「寝ます、そして干し飯を食し」
「そのうえで」
「うって出ます、では」
「その用意をですね」
「しておきましょう」
 こう言ってだ、謙信は武田の動きを見抜いたうえでだった。
 彼等を攻めることを考えていた、既に戦は動いていた。
 信玄は兵達に早い飯を摂らせ自身も食っていた、彼は握り飯を頬張りつつ周りにいる者達に強い声で語った。
「今は明日に備えてじゃ」
「皆ですな」
「大目死を喰らうべきですな」
「左様ですな」
「そうじゃ、戦をするからにはな」
 まさにというのだ。
「飯をたらふく食ってこそじゃ」
「満足に戦えますな」
「そうでればこそ」
「だからですな」
「今は」
「大飯を食うのじゃ」
 明日に備えてというのだ。
「そうするのじゃ、握り飯だけでなくな」
「干し魚に味噌もですな」
「どちらもですな」
「兵達に食わせるのですな」
「皆に」 
「そうじゃ、我等だけでなくな」
 兵達もというのだ。
「そうしたものを食わせるのじゃ」
「奮発しますな」
「兵達皆に干し魚に味噌もとは」
「お館様は」
「兵達に精をつけてもらわねば」 
 その為にというのだ。
「だからじゃ」
「将帥だけでなく兵達も」
「皆握り飯に干し魚、味噌も喰らって」
「そうしたうえで」
「明日戦うのじゃ」
「さすればです」
 高坂が握り飯を食いつつ信玄に言ってきた。
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